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いぶきネット句会たより

    



 
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   残雪の藤原岳    鈴木未草(知多市)      2023年4月

 

10数年前からボーイスカウトのお手伝いで、登山やクロスカントリーに付いて行っている。夏の北穂高岳以来、ここ数年は体力に自信がなく、主人だけに任せて遠ざかっていた。今回の冬の藤原岳はサポートする人が少ない上、年少者が多いとのことで参加することになった。
 現地に行くと懐かしい顔ぶれの大人たち。子供たちは、小学6
年生が多く、ベンチャーの高校生が数人混じり、全部で10数人。2つの隊に分かれている。
 山に慣れていない子が多いので、食料や装備の分配やら、荷物のパッキングやら、雪除けのスパッツの付け方やらが分からず、ザックのファスナーが壊れただの、手袋を忘れただの、大騒ぎして時間を食ってようやく出発。隊長は当然のように私にトップをやれと命じる。
 まず麓の小さな神社にて全員で安全祈願。そこが登山口でもある。森の中をしっかりした道ができており、そのうち傾斜がきつくなり、ジグザグのやや細い道、岩や木の根で躓きそうになる道になる。歩調はゆっくり進め、時々振り返る。遅れがちな子が2人いる。いずれも小学生だ。そのうち1人は私のすぐ後ろを歩かせたが、100m
ほど登った処でゼーハーと苦しそうな息をしている。顔色もよくない。
 先は長くもっと危険な所もあるので、ベンチャーの子にその子の荷物を持ってくれるよう頼んだ。快く引き受けてくれたが、途中辛そうだったので、同じ隊の他の子も交代で持ってくれた。
 他の登山者に行き会ったら「こんにちは」と挨拶するんだよ。道を譲る時は山側の安全な場所に寄ってね。石を落としてしまったらすぐ下の人に知らせて。ここは景色がいいね。ほら、平野がみえるよ。向こうの山にヤッホーって呼んでみようか。こだまするかもしれないよ。
 などと話しながら、何とか全員8合目にたどり着く。ここからは雪道になる。雪の下が凍っているところもある。
 全員アイゼンを付けさせる。私は道を捜した。夏道はロープで入れないようにしてある。積雪時の道を行くしかない。子供たちを2、3人ずつに分け夫々に大人がサポートする形に変わった。私には小6が2人だった。どちらかにトップをやらせ、私は後ろから見守ることにした。
 冬道はあるようでないのも同然だ。ただ雪と氷に覆われた急な取っ付きとひょろひょろとした裸木があるばかり。道がない所をどうやって進むか?それは木や岩に付いている目印を捜すのだ。ここは雪に覆われた林なので、枝に赤いテープがぶら下がっている。それを見つけるのが面白くトップの子はアイゼンを利かしてどんどん進む。とても初めての雪山とは思えない。後ろの私は息を切らすはめになった。2番目の子が気が付いてストップをかけてくれたので助かった。
 私たちは出発が早かったのと元気のいい子たちだったので、隊のみんなから離れてしまった。しばらく待って次のグループが見えた。子供らは安心したのか「ヤッホー」と声をかける。しばらく先に進みまた見えるまで待ちを繰り返し、集合の約束の9合目。しばらく下界の景色を楽しむ。遠く伊勢湾も見えるのだ。伝言で先に行って良いとのこと。小屋まで行くことにした。尾根に出ると風が強く所々雪が溶けて岩だらけになっていたり、泥んこになっていたりして歩きにくかった。
 小屋に全員到着し昼食。バーナーでお湯を沸かしラーメンを作る。予定の時刻を大きく遅れ、雲行きも怪しくなったので頂上までは行かず帰ることになった。
 どの山も登りと違って下りは楽しい。はめを外して雪玉が飛び交ったり、そり遊びしながら9合目。夏道への分岐がある。通れないようにロープが張ってあったが、くっきりした新しい足跡がある。あの八合目からの急斜面を下るのは危険だ。ロープをまたぎ、足跡を頼りになだらかなジグザグを辿って行く。途中小さな谷で足跡が消えた。少し離れた所に板を渡しただけの橋らしきものを渡ると、また足跡があった。しばらく行くとようやく雪のない八合目。ここで泥混じりのアイゼンを外し、服装を整え行動食水分を取り、主人がサポートしている子を待つ。
 私は疲れ切っていた。さっき橋を渡った時右足の内股がつりそうになったのだ。遅れているグループが姿を見せたので、トップを交代して先に行ってもらう。最後のバテバテグループと一緒にふもとまで下りた。膝が笑い何度も転びそうになる子を励まし励まし、最後の曲がり角で神社が見えた時はほんとに嬉しかった。よくぞ全員無事で帰れたことよ。

   残雪の山を見返す車中かな       未草



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