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 環境と俳句
  この度、「伊吹嶺」において「俳句と環境」と題して、環境問題を俳句の側面から会員皆さんの思いを書いて頂くコーナーを設けました。
 地球環境については気候変動の悪化、生態系の破壊などいろいろな問題を抱えています。一方私達俳人は豊かな気候、生物多様性のおかげで日本の豊かな四季に恵まれ、俳句の材料にもこと欠きません。
 また俳人協会にても「環境委員会」を立ち上げて、俳人の立場で環境問題に取り組んでいます。
 このような状況から「伊吹嶺」でも環境問題を取り組んできました。
 これまで「伊吹嶺」誌に「環境と俳句」として掲載し、
HP以外でも環境問題を考えて句作の実践を行う「自然と親しむ吟行会」も実施して来ました。
 
この度、平成30年よりさらに「伊吹嶺」誌の「環境と俳句」をさらに充実させていきたいと思います。合わせて隔年に行ってきている「自然と親しむ吟行会」も企画していきたいと思います。

なお2017年までの「環境と俳句」は【こちら】をクリックして下さい。
 
是非皆さんもこのコーナーに訪れて頂きたいと思います。

                       「伊吹嶺」環境担当  国枝 隆生
平成30年5月
里山保全
 松原 和嗣





手入れ
       
写真 国枝隆生


 ボランティアで、シデコブシやコバノミツバツツジの群落地の保全作業をしている。作業の一環として、保全する樹々の育成を阻害 したり、景観を悪くする草木を伐採しているが、保全の名のもとに刈られる草木を、ふと不憫に思った。
 私のやっていることは許される範疇なのか不安になり、「里山保全」とはなんだろうと整理してみた。
 里山は、役所言葉的には、「中山間地」で平野部の外縁から山地を含み、国土面積の七三%を含むとか。原生的な自然と都市の中間 とみなし、里山と農地を含む一帯の事とある。
 私なりの解釈は、人の生活の場としての里と、生活するに必要な山が組み合わさった地域で、それに付随する雑木林・竹林・田畑・ ため池・用水路などを含む空間で、生活のために「人の手が入り」様々な多様性を維持してきた生態系が「里山」と思う。
 なぜ「里山保全」が浸透したのか。
 戦後の高度経済成長時に、今までの生活環境が大きく変貌し、都市近郊の里山が都市化により、地方の里山が過疎化・高齢化によって 崩壊していく中で、失われていく循環型社会の見本の様な里山への郷愁と、行き過ぎた環境破壊の反省から、自然保護・環境保全の関心 が「里山保全」を推進させた。
 では「里山」をどうしたら良いか。
 里山は、以前薪や柴などの生活に必要なエネルギーを得るための必要な場所だった。今は、ご飯を炊くのも、風呂を沸かすのも、暖房 を入れるのもスイッチ一つで出来る。以前の里山生活では、薪に火を付けることから始めなければならない。
 かつての里山生活を誰も望まないので、以前の様な里山生活には戻れない。里山をどのように活かすかは、環境保全の立場と地域社会 の活性化を行政とで考えていかなければならない。
 私の伐採作業は許容範囲か。
 人の手を入れることで、森を明るく風通しを良くし、より良い環境を維持していく為の伐採は、許容範囲と思いたい。
 明るく見晴らしの良い場所に、保全した樹々の群落が一望でき、花を咲かす景色は圧巻である。すでにその効果は表れ始めている。排 除される草木には申し訳ないが、しばらくはこの様な作業を継続させてもらう事とする。
 懐かしい里山風景は各自、それぞれ異なると思うが、私の思い浮かべる里山は、裏山があり小川が流れ水田の広がる西日本型の里山で ある。具体的には、椎の木の茂った森と、爆弾が落ちて出来たと言われた池での昆虫捕りが懐かしい。

    源五郎少年の指なまぐさし    沢木欣一

    青天のこぶしはじめは光りなり    細見綾子



 
(了)



 文中写真 ミツバツツジ 国枝 隆生


平成30年4月
湯豆腐
 大島 知津
 




榛(ハン)の木の花
       
写真 武藤光晴


 ある日突然、アレルギーになってしまった。いつものように朝食の支度をしていた時、コップ一杯の豆乳とりんごを一切れ食べて すぐに口の中に違和感を感じ、目からは涙、鼻水と鼻づまり、みるみる顔中が目も開けられないくらい腫れ上がってしまった。何が 起こったのか?
 検査の結果、口腔アレルギー症候群という花粉症の一つで、ハンノキやシラカンバの花粉と特定の食物が引き起こすアレルギー症 状だった。私の場合は大豆とりんごが原因食物だった。薬は処方されず気をつける食物のリストを渡され、花粉の飛散する時期に対 策をするようアドバイスされた。花粉が反応する要注意食物のリストの多さに驚き落胆した。好き嫌いもなく大らかに育ってきた自 分がこんな過敏な体になってしまうとは信じられない思いだった。いつの間にか自分の体の中の環境が変わってしまっていたのだ。 りんごはともかく大豆が食べられないのは辛い。豆腐や油揚げは毎日のように食べていた。少しずつ様子をみながら自分の体を馴ら していこうと思う。
 新婚当初、主人が学生時代を過ごした京都を訪れて食べた湯豆腐が懐かしく思い出されてならない。

    湯豆腐や風の大原夫と来て      知津
 
(了)





平成30年3月
絶滅が心配される植物たち
 野島 秀子
 




シデコブシ
       
写真 武藤光晴


 年末、豊橋の「牛川の渡し」を訪れた時、船頭さんに岸辺に珍しい草があると教えられた。それがなんと!一度見たいと思ってい た「レッドデータブック」に準絶滅危惧種(NT)として載っている「蛸の足」というベンケイソウ科の植物であった。放射状に延 びた果柄についた実が蛸の吸盤のようなユーモラスな姿で冬の川岸を赤く染めていた。

    牛川の渡しあかるく名草枯る    秀子

 「蛸の足」が、ここで「牛川の渡し」と共に生きているのどかな風景に去りがたい思いであった。
 前述の「レッドデータブック」というのは、野生で存在する植物の中で、放置しておくと絶滅が危惧されるものを環境省がリスト アップした出版物である。それらの植物は、絶滅の危惧の度合いの順に絶滅危惧IA類(CR)、IB類(EN)、Ⅱ類(VU)、準絶 滅危惧種(NT)に区分されている。わが国では一六九〇種の植物が急速に絶滅の危機にさらされていると報告されている。
 地球の長い歴史の中で、このように沢山の日本の生物の絶滅が加速されてきたのは、ごく最近の事であるという。それは、自然災 害的な要因もあるが、ほとんどの場合、森林や池沼、河川などの開発や環境悪化などが主たる要因といえる。他にも園芸目的の採取 も大きな脅威になっている。
 これらの絶滅危惧の植物を護るため各地で様々な(生息域内植物保全)活動が実施されている。しかし、生息地の破壊などにより生 息地だけでは守り切れない植物の緊急避難場所として各地の植物園が、(生息域外植物保全)の施設としての重要な役目を担っている。
 名古屋の植物園の主な保全の例をあげてみると、一つは、シラタマホシクサ(VU)やムラサキミミカキグサ(NT)、チョウジソ ウ(NT)、サギソウ(NT)、トキソウ(NT)等々をもともと園内にあった湧水の斜面を利用して保全している。観察しやすいよ うに湿地園として復元し、日本で最小のハッチョウトンボの生息を楽しみに来園される方も増えている。
 もう一つは、東海地方に多い固有の植物種のマメナシ(VU)、ハナノキ(VU)、ヒトツバタゴ(VU)、シデコブシ(NT)等 を「東海の植物保存園」として、水たまりを設け環境を整え整備している。その結果、小動物や昆虫も生息するようになり、ビオトー プとして子供たちの環境学習の場を提供している。
 「昔はよく見られたが、今では植物園でしか見られなくなってしまった。」・・・とならないためにも、植物園では、絶滅危惧の植 物の展示を通して、地域の自然環境保護への関心を高めるような案内を意図的に心掛ける責務があろう。



 
(了)



 文中写真 ヒトツバタゴ 撮影 武藤 光晴


 平成30年2月
藤前干潟
 新井 酔雪
 




藤前干潟
       
写真 国枝隆生


    現れし流木に寄る残り鴨    栗田やすし
    大干潟おびただしきは蟹の穴  栗田やすし


 上の句は、栗田やすし先生が藤前干潟を訪れたときの吟行句の一部である。干潟に棲息する生き物を詠んで、自然を大切にする姿 勢を率先して示されている。この句のとおり藤前干潟には、多くの鳥類と多くの底生生物(蟹、貝、ゴカイなど)が棲息している。 鳥類は百七十二種類、底生生物は百七十四種類が年間を通して確認されている。
 春と秋には、シギ・チドリ類が旅鳥として数多く飛来して、オーストラリアやニュージーランドへと渡り越冬する。中継地である 藤前干潟で、底生生物を餌とし、羽を休める。冬には、ロシア極東やアラスカ方面から多くのカモ類が飛来し越冬する。まさに藤前 干潟は、都市に残された生き物たちのオアシスである。
 藤前干潟は、愛知県と三重県に挟まれた伊勢湾の最奥部の名古屋市港区に広がる干潟である。かつて名古屋港湾一帯は広大な面積 の干潟であったが、昭和二十五年以降、港湾開発・工場用地・農業用地として、そのほとんどが埋め立てられた。つまり藤前干潟は そこにわずかに残された干潟なのである。
 こういった状況の中、昭和五十九年六月にその干潟の一部をごみ処分場にするという建設計画が名古屋市から発表された。しかし、 これでは干潟に棲む生き物が絶滅してしまう、旅鳥と渡り鳥の貴重な場所がなくなってしまうと、市民と研究者が協力して埋め立て 反対運動を起こした。
 以降 、「藤前干潟を守る会」が結成され、その活動などにより、名古屋市議会へ埋立中止請願書が提出された。その後、名古屋市 はごみ処分場の規模の縮小を考えたが、それでは干潟の生き物を守れないことが分かり、環境庁の指示もあって建設を断念した。それ が平成十一年のことである。その翌月、名古屋市は、「ごみ非常事態」を宣言し、その後徹底したごみの分別とリサイクルの取り組み が行われた。行政にとってもごみ処理の問題は切実だったのである。そして、平成十四年に藤前干潟は、ラムサール条約湿地に登録さ れた。
 このように藤前干潟は、自然環境の保全上重要な場となっただけではない。大都市が循環型社会への取組を大きく推進させる転機と なった好例としても大きな意味をもっている。
 ラムサール条約に登録して十数年たった今、もっと藤前干潟へ吟行に出かけ、ここにおける例句を多く残すことが、わたしたち俳人 の責務ではないかと思っている。



 
(了)



 


 平成30年1月
光害
 国枝 隆生
 




宇宙から見た夜の世界地図
       
写真 NASA


    天の川柱のごとく見て眠る    沢木欣一
    九頭龍の洗ふ空なる天の川   細見綾子


 いずれも星がよく見えた戦前の句である。沢木先生の句は、柱が立つように見えたところが眼目で、それは現実に見た天の川の 実感であったと思う。また細見先生の句は、「夜の九頭龍は空をも洗い、銀河のまたたきが分かるほどだった」と呟かれたのも実 感であろう。
 近年、天の川どころでなく、一等星、二等星ぐらいしか見えなくなってきているのが現実である。
 これらの原因はほとんどが光害によるものである。一般的な「公害」と区別して「光(ひかり)害」と呼んでいる。このひかり害 を定義すれば「過剰なまたは不要な光による公害のことである」とある。ひかり害の実感として最初にあげた天の川で言えば、世界 の36%、日本の70%で、天の川を見ることが出来ないとしている。
 もう一つの実態として宇宙ステーションから送られてくる地球の夜景写真を見ると顕著である。この写真では日本列島がはっきり と写し出されている。そして世界中で日本が光害の「重要被疑国」と言われている。余談だが、北朝鮮の夜景は暗黒で、陸地と海と の境界も見えない。(写真1)
 このようなひかり害を起こす原因には実に様々である。人口密集地域、工場、街灯、道路などの照明、ネオン、パチンコ店のサー チライトなどの無駄な光によるものである。果ては日本海などの烏賊釣り船の照明は宇宙からもよく見えるという。一番や分かり易 い例で言うと、不適切な形態の街灯があげられる。例えば光源をただのガラス球で覆ったような街灯は光があらゆる方向に発せられ るが、上の方向は全く無駄である。横方向の光はグレアとして運転者の目をくらませる原因となる。
 これらの原因に対して、ひかり害の影響は単に星が見えなくなるだけでなく、夜空が明るくなることから、天体観測に障害を及ぼ したり、生態系を混乱させたり、あるいはエネルギーの浪費の一因ともなっている。こうしたエネルギーの浪費が地球環境温暖化の 直接要因ともなっている。
 私たちに身近な生態系への影響を考えると、まず地球の自転や公転によって作り出される昼と夜、日の長さに対応してきた動植物 が照明によってリズムを崩されている。例えば夜に開花する花を受粉させる蛾の飛行能力を妨害しているとか、明るい街灯のそばで 夜間も長時間光を浴びて続ける街路樹に紅葉遅れの異常が起こる。稲の場合、穂が出る一ヶ月前からの期間が重要で、このとき過剰 な夜間照明によって出穂の遅れや稔実障害の発生が報告されている。
 他にエネルギー資源への影響は容易に考えられることで、過剰な照明使用や空に向けて光が漏れることなどのエネルギー浪費であ り、国際エネルギー機関の2006年発表では、現状のまま不適切な照明が続けば、2030年には照明に使われる電力は80%増加するが、 適切な照明利用を行えば、2030年でも現在と同等の消費電力に抑えることが出来るという。
 では光害対策はどうかと言えば、環境省から「公害対策ガイドライン」(平成18年改訂)による指導、啓蒙行われている。
 屋外照明設備の不適切事例で前述したが、街灯の上方光束を遮って安全を保ちつつ、下方光束に限定した街灯構造にするだけで達 成出来る。(写真2)
 また自治体事例では、岡山県美星町で「光害防止条例」制定により過剰な照明を制限している。そしてこの町は町名どおり「星降 る里」として全国の天文ファンでは有名になっている。
 以上幅広い内容をかいつまんで説明したが、俳句を作る者にとってもひかり害に興味を持って、澄みきった星空を詠む楽しさを体 験して欲しい。(「伊吹嶺」2018年1月号加筆)


 
(了)



 





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