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2017年9月号 (231)
 
 馬籠の秋                    栗田 やすし
 

 馬籠峠の茶屋の脇に
  
白雲や青葉若葉の三十里     子 規
の句碑がある。明治二十四年、子規が東京大学文科一年の学科試験を放棄して木曾路を経て松山に帰郷した折に詠んだもので、眼前に悠然と浮かぶ白雲をわが身の行く末に対する深い感慨をこめて詠んだものである。
 この馬籠峠から一筋の坂道に沿って下れば馬籠宿に入り、脇本陣、一軒おいて大黒屋、その隣は藤村記念館である。脇本陣の前には〈街道の坂に熟れ柿灯を点す 誓子〉の句碑がある。この句は昭和五十二年に脇本陣の当主の願いで立てられたもの。
 昭和五十年十月二十五日、馬籠で風中部俳句大会が催され、欣一・綾子両先生は連衆とともに民宿「馬籠茶屋」にお泊まりいただいた。
  
桑畑に綿の白さの秋の雲     綾 子
 木曾の白雲は子規の句を連想するが、〈綿の白さの〉は、秋の雲の白さに対する極めて自然な、子どもの
ような純朴な感動の表現である。
  馬宿といふものぞきて秋の暮     綾 子

の句は翌日の妻籠吟行で「馬宿」の掛札のある小さな小屋があり、綾子先生は馬宿に強く惹かれたご様子で、そのうす暗い土間を覗き込まれていた。
 この俳句大会は「風」の愛知・岐阜支部でお世話したが、大会運営は初めてのことで、前日から馬籠入りしていた私たちを飴山実氏が同宿して色々助言して下さり、雑務を手伝ってくださったのもなつかしい思い出である。