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2024年5月号 俳日和(76)
 
  基礎固め

                             河原地英武

 俳句と語学は学び方の点で似たところがあるように思われる。初めのうちは語法や文法などむずかしいことは考えず、定型表現をできるだけ暗記し、実際に使ってみる(俳句なら作ってみる)ことだ。しかしある程度慣れてきたら、一度は教科書や文法書で秩序立った勉強をし、規範をしっかり頭に入れる必要がある。基礎固めをするのである。それを怠るといつまで経っても自信がもてず、同じ間違いを繰り返すことにもなる。

 たとえば「山越へり」。たまに俳句でこんな表現を見かけるが、問題の箇所を指摘できるだろうか。ここには2つのミスがある。第1に、「越へ」とは表記しない。「越え」が正しい。なぜならこの動詞の終止形は「越ゆ」。その連用形は「越え」だからだ(終止形が「越ふ」なら「越へ」と活用するところだが)。第2に、「越えり」も間違い。完了の助動詞は「り」はサ変と四段以外の活用をする動詞には接続できないが、「越ゆ」は下二段活用の動詞だからである。「越えたり」または「越えぬ」とすれば問題ない。

 では、「楽しけり」はどうだろう。これも正しくない。過去・詠嘆の助動詞「けり」は必ず活用語の連用形に接続する。形容詞「楽し」は終止形である。これに「けり」を付けるためには「楽し」を連用形にしなくてはならない。「楽し」の連用形は「楽しかり」。したがって「楽しかりけり」が正解となる。

 実のところ1人でこうした勉強をするのは大変である。句会のとき、少し文法のおさらいの時間を設けるというのも一法かもしれない。同人の伊藤克江さんは『古典文法 虎の巻(その壱~その参)』と題する掌サイズの便覧を手作りし、たんぽぽ句会で共有しておられるそうだ。伊吹嶺HP「落書」(2月4日)にも紹介されている。ダウンロードすれば誰でも作成できる。他の句会の皆さんにもぜひ活用していただきたい。