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選句結果
     
第215回目 (2017年5月) HP俳句会 選句結果
【  坪野洋子 選 】
  特選 田水張る水の地球の片隅に 妙子(東京)
   川底のきらめく魚影夏来る きょうや(東京)
   あぎとふの鯉に崩れる花筏      中島(横浜市)
   鳩サブレさくり憲法記念の日 正憲(静岡県)
   石垣に爆撃の跡夏来る 吉田正克(平子町)
   母許へ信号一つ夕薄暑 うさぎ(愛知県)
   ラテン語の飛び交ふ工事麦の秋 青木秋桜(名古屋市)
   樹の下に木の椅子ひとつ風薫る 青木秋桜(名古屋市)
   分校はとんがり屋根や燕来る 蝶子(福岡県)
   白杖を預けてあがる遍路宿 和久(滋賀県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 母許へ信号一つ夕薄暑 うさぎ(愛知県)
   厨より酢の匂ひ来る遅日かな 岩田遊泉(名古屋市)
   川底のきらめく魚影夏来る      きょうや(東京)
   湖薄暑影なす朝の浮御堂 典子(赤磐市)
   夏めくや太き背文字の広辞苑 暁孝(三重県)
   青空に緑重なる若楓 宇駱駄(名古屋市)
   予備の鎌腰に棚田の草刈女 のぶこ(北名古屋市)
   顎あげて稚児たんぽぽの絮吹けり 和江(名古屋市)
   樹の下に木の椅子ひとつ風薫る 青木秋桜(名古屋市)
   溶けさうで溶けぬ水母の水の色 幹弘(愛知県)
【  河原地英武 選 】
  特選 厨より酢の匂ひ来る遅日かな 岩田遊泉(名古屋市)
   日焼けして縄文土器を掘り当てぬ きょうや(東京)
   葉桜の風やはらかし師弟句碑      とみえ(愛知県)
   鳩サブレさくり憲法記念の日 正憲(静岡県)
   夏めくや太き背文字の広辞苑 暁孝(三重県)
   甲板にコンテナヤ−ド霾れり  三泊みなと(北海道)
   降り残る空の濁りや紫木蓮 勢以子(札幌市)
   昭和の日くちびる染めしナポリタン 嵩美(名古屋市)
   分校はとんがり屋根や燕来る 蝶子(福岡県)
   薫風のぶつかり合ひて来たりけり 和久(滋賀県)
【  鈴木みすず 選 】
  特選 葉桜の風やはらかし師弟句碑 とみえ(愛知県)
   甲板にコンテナヤ−ド霾れり  三泊みなと(北海道)
   叱られてすぐに泣く子や若葉風      さよこ(神奈川県)
   深山の白き出で湯や余花の雨 松永(静岡市)
   窓開けて家中通す初夏の風 清風(鳥取)
   夕凪や海に迫り出す駐車場 田村幸之助(鈴鹿市)
   予備の鎌腰に棚田の草刈女 のぶこ(北名古屋市)
   武具飾るおばんざい屋の蔵座敷 のぶこ(北名古屋市)
   石垣に爆撃の跡夏来る 吉田正克(平子町)
   分校はとんがり屋根や燕来る 蝶子(福岡県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、うさぎさん(愛知県)、蝶子さん(福岡県)、岩田遊泉さん(名古屋市)、とみえさん(愛知県)でした。最高得点者が3名以上ですので、今月の最多入選賞はありません。

【講評】


       2017年5月伊吹嶺HP句会講評        国枝 隆生

 今月は高点句が競り合って結局最高得点句はありませんでした。高得点者が4人並び
ましたので、これらの句から見ていきたいと思います。

母許へ信号一つ夕薄暑

 私が特選で頂いた句です。母の家を訪れたときの句でしょうか。あと信号一つで母の
家に着く。作者を待っている母の顔も見えてくる。そんな心情の中での「夕薄暑」の季
語が実に有効に機能しています。母親の家にたどり着くまでの1つのストーリーが描か
れるエッセイを読むような安らぎの覚える句でした。

厨より酢の匂ひ来る遅日かな

 実に感覚がさえている句だと思いました。台所から酢の匂いが届くのはよくあるかも
知れません。それを詩情にまで高めるものは季語です。「遅日」という春ののどけさとな
かなか暮れない時間帯に感じる季語が夕餉の支度にふさわしいと思いました。

葉桜の風やはらかし師弟句碑

 この句がこのHP句会で採られるのは、一寸解釈が必要です。葉桜の下にある師弟句碑
と言えば、私達「伊吹嶺」で勉強している者にとって、周知の事実ですが、HP句会で採
られるのは、ある程度の普遍性が必要でしょう。もしかすると全国に師弟句碑は無数に
あるのでしょう。私の近隣では三重県柘植町にある青々・綾子句碑、岐阜市の誓子・多
佳子句碑などいろいろあります。この句は「風やはらかし」に綾子・やすし句碑への憧憬
が込められていると思います。

分校はとんがり屋根や燕来る

 4人目の高得点句です。一読して連想するのは、昔のラジオドラマ『鐘の鳴る丘』の
主題歌の『とんがり帽子』です。この歌詞の「・・赤い屋根とんがり帽子の・・」で分
かるように「とんがり屋根」に繋がります。すなわちこの句の「分校」にはいにしえのメル
ヘンが感じられます。そういう意味でメルヘンの既視感があります。そのあたりが選者
に選ばれたのでしょう。童謡を考えなくてもメルヘン的な詩のある句です。

田水張る水の地球の片隅に

 一人の選者が特選で採っています。田植えのために一斉に水を張った田んぼが見えて
きます。さらに中7以降のことを考えると、この「田水張る」は棚田のように高いところ
から俯瞰した視点も見えます。それが中7以降の「水の地球の片隅に」の巨視的な把握に
繋がっています。このような巨視的な視点は大胆な発想でないと詠めません。

 同じ巨視感のある句で、「水の地球少し離れて春の月 正木ゆう子」があります。この
句はさらに視点が宇宙にあります。その宇宙から見た「水の地球」は青い地球で、原句
の「田水張る」は地上から見た青い地球です。

夏めくや太き背文字の広辞苑

 この句は私を含めて、選者二人が採っています。私は電子辞書の「広辞苑」を使ってい
ますが、紙ベースの「広辞苑」は約2千数百ページで、背表紙の文字も相当太くなってい
ます。その背文字に夏を感じた感覚的な句です。広辞苑は年中そばにありますが、何故
「夏めく」との取り合わせが効いているか私は解答を持っていません。しかしその重量感
に夏を感じたことに納得しています。

 以下思いついたことを述べますが、まず切れ字、切れについて考えます。

片蔭やブラウス白き少女かな

春風やえんどうの蔓泳ぎけり

 ともに切れ字の「や」と「かな」や「けり」の切れ字を2つ使っています。切れのとこ
ろで一息入れますし、大きな切れの場合、声を出して読んでみると、リズムが悪いこと
が分かります。特に「や」の場合は断絶の切れですから、注意を要します。また「かな」
は下5に置くことによって、余韻が生まれ、その余韻が大きくふくれあがります。その
ためには上5,中7と一気に読み下して途中で切れを入れないで詠むことが大事です。
そうすると上5の「や」が邪魔してしまいます。

鉢に樹に新緑溢る狭庭かな

 ではこの句はどうでしょうか。一見切れ字は「かな」だけで、よいように思えますが、
声を出して読んでみて下さい。そうすると中7の「新緑溢る」は終止形となっていますか
ら、ここでいったん切れが入ります。と言うことでこの句も切れが2つ入ってリズムを
悪くしています。この場合は「鉢に樹に緑溢るる狭庭かな」とすれば「かな」の止めがよ
く効いていると思います。

雨の夕花粉に塗る百合の花

 ではこの句はどうでしょうか。この句も別に問題がなさそうですが、上5,下5は意味
的にも切れが入っています。そして中7の動詞は4段活用で終始形も連体形も同じですが、
意味的によく分からないのですが、終止形のようです。と言うことでこの句は3句切れ
ではないかと思います。

以下個々の句について感想を述べます。

心経の余白葉桜ゆれてゐる

 「余白」と「葉桜」の取り合わせのように思えますが、その取り合わせの効果がよく分か
りませんでした。

初夏や匂ひ吹き来る湖の風

 気持ちのこもった句ですが、「吹き来る」と「風」の使い方がダブって、言葉がもったい
ないと思いました。

あぎとふの鯉に崩れる花筏

 上5に苦労された様子がうかがえますし、情景もよく見え、きれいな句です。ただ以前
にも言いましたが、1句の中で文語(歴史かな遣い)と口語の混在はよくありません。
上5の「あぎとふ」は古語のようですが、「崩れる」は現代仮名遣いの口語です。俳句を文
語で詠むか、口語で詠むかは作者の考えでしょうし、あるいは結社で決まっていると思い
ますが、1句の中の混在はよくない思います。この句の場合は「鯉に崩るる」でよいかと思
います。

 また同じような情景を詠んだ句に「葉桜や日の斑を突く鯉の口」がありますが、こち
らの句は分かり易い言葉を使い、情景もよく見えます。

梅雨憎し靴裏赤きハイヒール

 この句は赤いハイヒールを履きたいが、梅雨のために履けなくて憎いと思ったので
しょうか。句の仕立てに因果関係を含むというか理屈で俳句を作っているように思えま
した。

醍醐桜悠久の時咲き咲きて

 中7に言葉を収めるためにややもすれば言葉を詰めるというか、省略すると、意味が分
からなくなるときがあります。下5の「咲き咲きて」は当然醍醐桜のことでしょうが、中7
を「悠久の時」と助詞をなくしたため、「悠久の時が咲いた」と理解してしまいます。中7は
「悠久の時を」でしょうが、中8になってしまうので避けたのでしょう。むしろ中7の抽象
語でなく、具体的な様子を写生してみてはいかがでしょうか。

待合は女ばかりの金魚かな

 同じように誤解されかねない表現を抜いてみました。金魚が女ばかりではないことは
当然で、「かな」で止めたため、「女ばかりの金魚」となってしまいました。このような時
は、中7に切れを入れて、「待合は女ばかりや金魚鉢」など下5に「かな」を使わなければ解
決すると思います。

無に帰する夢も有りけり花杏

 杏の花を我が身に置き換えて、詠まれたのでしょうか。ただ「無に帰する夢も」のよう
な個人的な感慨は読者に分かりません。このようなことは俳句以外で表現するしかあり
ません。俳句はあくまで具体的な物に託して客観的に写生して、あとは読者に任せるし
かありません。

冷麦やあしたと今日を取り違え

 冷麦を食べていると、うっかり今日と明日を勘違いしてしまったのでしょうか。この
ような事柄の面白さも俳句になじみません。あくまで物を対象に写生しましょう。

活け〆の鯖の眼の青さかな

 おいしそうなしめ鯖でしょうか。今は旬なのですか。ただ俳句のことと違いますが、
最近鯖と烏賊のアニサキス症が気になって食べられません。余談でした。

風光る芝生に乳児置かれをり

 気持ちのよい清々しさのある句です。俳句の基本もよく出来ています。ただ「緑陰に
赤子一粒おかれたり 欣一」がすぐ浮かんできて採ることが出来ませんでした。

 今月は以上です。また来月も良い句に会えることを楽しみにしています。

第214回目 (2017年4月) HP俳句会 選句結果
【  矢野孝子 選 】
  特選 さくら散る骨董市の銀の皿 眞人(さいたま市)
   大いなる忌日鎌倉花吹雪 箕輪恵三(千葉市)
   芽柳と風を分け合ふ通院日      妙子(東京)
   囀や花壇に戻す鉢の土 康(東京)
   自転車のギヤ落としけり春の月 田村幸之助(鈴鹿市)
   重さうな山羊の乳房や風光る 雪絵(前橋市)
   野遊びや萌黄に染まる十の指 ときこ(名古屋市)
   煙突は高さを競ひ昭和の日 正憲(浜松市)
   青空の揺らぎ落花の始まりぬ 蝶子(福岡県)
   蓬餅食めばおのづと郷訛 惠啓(三鷹市)
【  伊藤範子 選 】
  特選 自転車のギヤ落としけり春の月 田村幸之助(鈴鹿市)
   大いなる忌日鎌倉花吹雪 箕輪恵三(千葉市)
   囀や花壇に戻す鉢の土      康(東京)
   海が好きカモメが好きで修司の忌 嵩美(名古屋市)
   ふさふさと車山(やま)の提灯春を告ぐ 隆昭(北名古屋市)
   さくら散る骨董市の銀の皿 眞人(さいたま市)
   ももいろにけぶる対岸うららけし ときこ(名古屋市)
   SLにトーマスの顔子供の日 正憲(浜松市)
   満開の桜川面を引き寄する 蝶子(福岡県)
   青空の揺らぎ落花の始まりぬ 蝶子(福岡県)
【  中野一灯 選 】
  特選 重さうな山羊の乳房や風光る 雪絵(前橋市)
   清明や朱の色深き野点傘 須藤曉風(前橋市)
   花冷えや酒旗はたはたと鳴るばかり      須藤曉風(前橋市)
   花万朶池面をカヌー滑り行く 和江(名古屋市)
   獣道抜けて明るき山桜 まこ(埼玉縣草加市)
   戦車座す駐屯地いま花盛り 平野蒼玄(八王子市)
   自転車のギヤ落としけり春の月 田村幸之助(鈴鹿市)
   土俵跡のこる廃校山ざくら 松村洗耳(三重県)
   水郷に朽ちし釣舟春惜しむ かっこ(名古屋市)
   剪定の枝に樹液の滲みだせり のぶこ(北名古屋市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 花ふふむ幼抱っこの滑り台 鈴木八重子(愛知県)
   芽柳と風を分け合ふ通院日 妙子(東京)
   金閣やこぞりて立てる松の芯      康(東京)
   囀や花壇に戻す鉢の土 康(東京)
   清明や朱の色深き野点傘 須藤曉風(前橋市)
   池底のきらめく魚影夏近し 小川きょうや(東京)
   重さうな山羊の乳房や風光る 雪絵(前橋市)
   春暁や灯明灯す修行僧 宇駱駄(名古屋市)
   鍬先にまろぶ蛹や黄砂くる 勢以子(札幌市)
   潮入りの波のまぶしさ初ひばり 勢以子(札幌市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、田村幸之助さん(鈴鹿市)、雪絵さん(前橋市)でした。「伊吹嶺」4月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



       2017年4月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

 今月もたくさんの御投句ありがとうございました。

 今月も、できるだけ多くの句にコメントできるように心がけました。言い方がぶっき
らぼうだったり、辛口な表現もあるかと思いますが、ご容赦ください。

1  農事終へ日溜りに摘むつくしんぼ  

 「農事」が漠然としています。もっと具体的な作業・行動が見えるように詠むと良い
と思います。下五は、「土筆かな」と切った方が良いでしょう。

2  西行忌和歌を選びて巻物に  

 季語の西行忌と、中七以降が付きすぎに感じました。

3  のどけしや延長保育の鬼ごっこ  

 のどかな感じが良く出ていますが、中七がやや説明的で具体的な景色に結びつきませ
んので、目に見える景を写生されると良いと思います。

4  窯跡の菜の花畑降り止まぬ  

 何が降り止まないのか、よくわかりませんでした。

5  夕桜会社帰りの喫茶店  

 何となく心情は伝わりますが、「会社帰り」「喫茶店」からは、あまり具体的な景が
見えません。もっと目に見えるものを詠むと良いと思います。

6  畦路に家の灯りや遠蛙  

 畦道に家があるように読めます。

7  八幡へ花の誘ふ段葛  

 「花の誘ふ」と言わずに、誘われている気持ちが感じられるように詠めると良いです
ね。

8  大いなる忌日鎌倉花吹雪  

 虚子の忌日と思います。きれいに詠まれていますが、三句切れなのが気になりました。

9  花辛夷朝の大気に点火して  

 工夫した比喩と思いますが、少々無理があるように感じました。

10  曲線を描く辛夷の鼓動かな  

 同上

11  猫二十一歳花冷えも胸に抱き  

 猫が死んだのでしょうか? 意味がよくわかりませんでした。

12  芽柳と風を分け合ふ通院日  

 優しい気持ちの句ですね。「風を分け合ふ」で、芽柳が戦いでいる様子と、作者自身
が風を心地良く感じていることがわかります。下五で、作者は普段はあまり外出されな
いのであろうことが伺えます。それだけに、春の風が嬉しく、心地良く感じるのでしょ
う。

13  花ふふむ幼抱っこの滑り台  

 滑り台の近くまで迫っている桜が膨らんできたのですね。まだ一人で滑り台を滑れな
い子を抱いている作者の姿と心情が伝わる良い句です。

14  のどけしや螺旋階段弾み降り  

 下五の言い回しに無理があるように思いました。

15  沈丁花犬と屈みていざなわれ  

 沈丁花が犬と屈んだように読めます。また、何(誰?)が何に誘われたのかが、よく
わかりませんでした。

16  朧夜を来て追憶のはなやげる  

 主観的です。また、朧夜→追憶が付きすぎに感じました。

17  食卓の椅子は二脚に春愁

 「何かを言いたい感」が出てしまっているように思います。「春愁や厨に古りし椅子
二脚」のように、感情を抑えて詠みましょう。

18 よく動く手話の指先花盛り

 微笑ましい句ですが、季語が動くように思います。木の芽風・風薫るなど、動きが感
じられる季語の方が似合うのではないでしょうか?

19  金閣やこぞりて立てる松の芯

 名所旧跡を詠むと似たような句になりがちですが、こちらは着眼点も良く、景のしっ
かりした句です。

20  囀や花壇に戻す鉢の土

 生活の中に季節を見出す感性が、良く俳句に活かされています。季語が良く利いてい
ます。

21  嫋やかな舞の手振りや猫柳

 取り合わせの句か、比喩の句なのか、解釈に迷いました。比喩とすると、月並みな感
じがします。

22  蒼天に真白き辛夷影こぼし

 「蒼天に真白き」は、すでに辛夷のイメージに含まれています。

23  感動の春場所泣けた稀勢の勝ち

 私も泣けました。ただ、このようなことを言うのであれば、わざわざ17音しか使え
ない俳句を選ぶ必要はありません。俳句では、俳句で詠むべきこと「句材」を選ぶこと
が大事です。

24  春暁名句浮かんだ夢の中

 名句を御投句戴けなかったのが残念です。日記や独り言のようなものを句にすると、
17音以上の広がりは得られません。

25  大福を子の卒業に一人食ぶ

 ささやかな生活感がほのぼのとして、面白い句材と思います。ちょっと一本調子です
ので、詠み方に工夫があると良いですね。

26  入学式思案の末の裄の長

 気持ちのありようは伝わりますが、説明的で、報告になってしまいました。

27  二つの目時に節穴万愚節

 深いことをおっしゃっていますが、俳句で言うべきことではないと思います。

28  蠢いてクローン状態蝌蚪の紐

 「クローン状態」というのが、何を言いたいのかわかりませんでした。

29  清明や朱の色深き野点傘

 印象鮮やかです。

30  花冷えや酒旗はたはたと鳴るばかり

 見たままを詠まれていて、風情がありますね。

31  花万朶池面をカヌー滑り行く  

 きれいな句です。「池面」は「ちめん」または「いけも」でしょうか? いずれにし
ても一般的な言葉ではありませんので、湖面(こめん)また水面(みなも)とした方が
良いと思います。「滑り行く」の複合動詞は、「滑る」か「行く」とすると、言葉の節
約になります。

32  雪柳花粉まみれのかくれんぼ  

 雪柳に、人に付くほどの花粉があることは知りませんでした。雪柳の茂りを、かくれ
んぼの隠れ場所にするというのは、面白い着眼点と思います。

33  春宵や隣りの席の子のゲーム  

 季語が動きますし、中七・下五で何に感動したのかがわかりません。

34  鳥雲に入りて発車のローカル線  

 「ローカル線」は説明的で具体的な景が見えない言葉です。この句の場合は、具体的
な路線名を詠み込んだ方が実感が湧くと思います。

35  菜の花や色とりどりの風に揺れ  

 上五を「や」で強く切った場合は、中七下五は上五と離れたことを詠むのが定石です。
「色とりどりの風」は一見きれいな表現ですが、観念的で自己満足に陥っている感じが
します。

36  年老いた母の手を引き桜狩  

 「母の手を引き」と言えば、「年老いた」は要らないでしょう。

37  獣道抜けて明るき山桜  

 「獣道」は比喩でしょうが、少々大げさに感じました。「峠へと出し杣道山桜」で、
桜の明るさも見えると思います。

38  読み直すロシア文学夜の新樹  

 「ロシア文学」が漠然とし過ぎています。上五中七が屋内の景に対して、下五は屋外
であり、季語が動きます。

39  入学児まだいとけなき仕草かな  

 全体が「入学児」の説明になっており、いわゆる「季語の説明」の句になってしまい
ました。

40  ぼんぼりの明りはんなり花の冷え  

 ぼんぼりと言えば、「明りはんなり」は要りません。

41  手際よく矍鑠として畔を塗る  

 「手際よく」も「矍鑠として」も主観的で抽象的な言葉です。もっと具体的な動作や
様子を詠むと良いと思います。

42  人動き梅の香りの動きけり  

 人が動いた「から」梅の香も動いたという因果関係を言っており、観念的な句となり
ました。

43  初蝶の風に逆らふこと出来ず  

 蝶はべつに風に逆らおうと思ってはいないと思いますので、そう感じるのは作者の主
観に過ぎません。蝶と風の組み合わせはよくありますので、これで独創的な句を詠むの
はなかなか難しいですね。

44  梅見客そばの熱きをすすりをり  

 梅は桜と違って、満開よりも一輪二輪の咲き具合を静かに楽しむというようなイメー
ジがありますので、熱いそばを勢いよく啜るシーンは、ちょっとそぐわないように思い
ました。

45  入学の洟垂れ小僧と掌を繋ぐ  

 入学児は幼いことはわかりますから、中七は不要と思います。「鼻かみてより手を繋
ぐ入学児」等とすると、幼い入学児の様子が具体的に見えると思います。

46  旅立ちや蒲公英の絮風に乗る  

 蒲公英の綿毛が飛ぶのを「旅立ち」と言うのは、ありきたりです。

47  戦車座す駐屯地いま花盛り  

 私の近所にも陸上自衛隊の駐屯地があり、桜の花が見事です。良い句材と思います
が、調べがやや一本調子な感じがしますので、その点を工夫されると良いと思います。

48  右手杖左犬つれ春の原  

 あえて、右・左と言う必要は無いと思います。

49  タワーより陽炎見ゆる神戸港  

 報告的な句の感じを受けました。

50  のどけさやゆるりと廻る観覧車  

 類想が多く、中七が観覧車の説明に感じました。

51  鳥の巣や陶土の山に電波塔  

 陶土の山とは、陶土が取れる山のことでしょうか?上五と、中七下五が離れすぎのよ
うに感じました。

52  自転車のギヤ落としけり春の月  

 やや説明的に感じましたが、作者の気持ちは伝わって来ます。

53  土俵跡のこる廃校山ざくら  

 土俵”跡”ですから、「のこる」は不要です。逆にのこるを活かして、「廃校に残る
土俵や山桜」としても良いと思います。

54  落花一片少女の掌より逃れけり  

 あえて上五を字余りにする必要があるでしょうか? きちんと定型に収まるように推
敲する余地があると思います。

55  田んぼ道土ころがして鳴く蛙  

 「土ころがして鳴く」の意味がわかりませんでした。

56  温もりを土手にもらひし土筆かな  

 上五中七が観念的です。格好良いことを言おうとせずに、土手に日が差していれば、
それをそのまま自分の言葉で詠みましょう。

57  水郷に朽ちし釣舟春惜しむ  

 上五は、「水郷の」とした方が、舟を見ている作者の視点がより定まります。できれ
ば、水郷はもっと具体的な言葉を選びたいところです。

58  アルバムに苦き思い出蕗の薹  

 上五中七は観念的で作者にしかわからない内容です。また、蕗の薹と苦いというのも、
つき過ぎです。

59  落椿拾へば転ぶまたひとつ  

 よく意味がわかりませんでした。落椿を拾うと必ず転んでしまうほど足腰が弱ってい
るのでしょうか? 下五も、何がまた一つなのか、よくわかりませんでした。

60  すれ違ふ笠目深きや夕遍路  

 お遍路さんが笠を深く被っているのも、そういう方とすれ違うのも、特に珍しいこと
ではないと思います。夕遍路という言葉からは「かなしみはしんじつ白し夕遍路 野見
山朱鳥」の句が浮かびます。朱鳥の句では、「かなしみはしんじつ白し」と「夕遍路」
が響きあっていますが、この句の場合はどうでしょうか? 

61  光より来る鉢植ゑの春の鳥

 上五が何にかかるのがが分かりにくいです。また、春の鳥が鉢植えになっているよう
に読めてしまいます。

62 清々し写経に遊ぶ竹の秋

 「清々し」のような、気持ちを直接述べる言葉を使うと、主観的になり、句に深みが
なくなります。「写経に遊ぶ」も、俳句では「写経」で十分です。

63  海が好きカモメが好きで修司の忌

 主観的な句ですが、忌日の句ではこういうのもありなのかな?という気もします。

64  廃園の朽ち果てしベンチにも春日

 中七の字余りが致命的にリズムを悪くしています。また、助詞の「も」は、うかつに
俳句に使うと句を弛緩させます。「廃園の朽ちしベンチの春日かな」等、いくらでも推
敲できます。

65  春愁やプラネタリュ−ムの円天井

 上五と、中七下五の響き合いがあまり感じられませんでした。

66 池底のきらめく魚影夏近し

 きらきらと涼し気で、気持ちの良い句です。

67  春灯の足元暗き帰り道

 この場合は、懐中電灯などの前照灯でしょうか? そういうものを春灯と呼ぶのは、
あまり馴染まないように思いました。

68  乱雑といふ元気さや連翹咲く

 上五中七の意味が分かりにくく思いました。また、各種の花を詠む場合は、通常咲い
ているところを詠みますので、「咲く」という必要はありません。

69  花吹雪浴びて宴の盛り上がり

 「花見」という季語の説明に近いです。

70  重さうな山羊の乳房や風光る

 季語が活きていますね。上五がやや主観的ですので、例えば「よく張りし」など、具
体的に目に見える景にするとより良くなると思います。

71  連翹の長けて絡まり叢なせり

 俳句をする人は、「連翹」という言葉だけで、ほぼそのような景を思い浮かべること
ができます。写生は、ややもすると季語の説明になりがちですので、注意しましょう。

72 連翹の垣に囲はれ鶏あそぶ

 連翹と鶏の取り合わせですので、上五を「連翹や」と切り、中七下五で鳥の様子を写
生しましょう。

73  遠足の園児キャラ弁開きけり

 キャラ弁などという略語は、俳句には使えません。遠足の子供が弁当を開くという景
も、新鮮味に欠けます。

74  細波のダム湖にそよぐ若柳

 細波、湖、若柳の取り合わせが、平凡に感じました。

75  春暁や灯明灯す修行僧

 これから一日が始まる、寺の早朝の景が良く見えますね。灯の字と「と」の音が重な
りますので、「御明(みあかし)」としても良いかもしれません。


76  雨上り音ひびき合ふ竹の秋

 竹の秋は、時候を表す言葉ですので、音ひびき合うというのは無理があります。

77  廃校に響く歌声春惜む

 季節の春とともに、人生の春をも惜しんでいるのでしょう。

78  葱坊主餓鬼大将は同級生

 俳句は一人称現在形が原則ですので、この句をそのまま読むと、子供が詠んだ句とい
うことになってしまいます。

79  証書手に芽吹きの中を巣立ちけり

 「卒業」の説明です。

80  過疎の村二人ならんで卒業歌

 説明的な感じがします。思い切って、「村中に響け二人の卒業歌」等とするのも、俳
句の挨拶としての性質が活かせると思います。

81  ふさふさと車山(やま)の提灯春を告ぐ

 各地の祭りで季節を感じる人は多いと思います。ただ、それをそのまま詠んだのでは説明になってしまいます。「春を告ぐ」と言わずに、春の季語を合わせましょう。

82  弓なりの男どんでん車山の春

 「車山の春」は無理があります。また、破調の三段切れです。

83  万物の帯を解ぎほす春の雨

 観念的な理屈の句です。

84  春の夜のまたねと別れて二十年

 作者にしかわからない句です。

85  花満ちて崩れる寸前のかたち

 観念的な句ですが、独特の雰囲気を感じました。

86  満開の花の下なる鼠の屍

 この句も独特の感覚です。梶井基次郎の小説を思い出しました。

87  鍬先にまろぶ蛹や黄砂くる

 生活の様子が良く表れています。足元から空への視線の転換も良いですね。

88  潮入りの波のまぶしさ初ひばり

 水のまぶしさ、空のまぶしさが感じられ、聴覚的にもうったえる明るい句です。

89  老木のさくら今年も満開に

 「報告」の句になってしまいました。

90 城のなき城山に来て菫草

 大きな城山と、可憐な菫の取り合わせが良いですね。「来て」を何とかしたいところ
です。

91  鉄線の蕾ほどけて濃むらさき  

 写生というよりは、鉄線(クレマチス)の説明の感があります。

92  ぶらんこに笑い声乗せ二人乗り  

 子供が二人で一つのぶらんこに乗っているのだと思います。「笑い声乗せ」のように
抽象化せずに、見るままの景を詠むと良いですね。

93  一人旅まだまだ続く春の暮れ  

 感傷が感じられますが、主観的で自己満足的な句になってしまいました。

94  飛花落花この昼中にわれ一人  

 観念的な句ですが、ある面では成功していると思います。確かに、見事な花吹雪に身
を預けていると、こんな気分になります。

95  さくら散る骨董市の銀の皿  

 上五は、「花散るや」と切って取り合わせの句とした方が、銀の皿がより映えると思
います。

96  武蔵野の空ほしいまま揚雲雀  

 中七は、「揚雲雀」のイメージに含まれます。

97  なほ清く桐原水や百千鳥  

 湧水が清いというのは言わなくてもわかります。水が湧く音などを描写すると、百千
鳥との響きあいも良くなると思います。

98  ハンカチを銜へ手水や椿東風  

 さり気ない景をうまく捉えられました。ハンカチと椿東風との季重なりはあまり気に
なりません。

99  ももいろにけぶる対岸うららけし  

 対岸に、桜の咲いている様子でしょうか? 全体的にもやっとした感じの句で、それ
がまた味になっているとも言えますが、下五は例えば「花筏」など、具体的なものを詠
むと良いと思います。

100  野遊びや萌黄に染まる十の指  

 感覚が優れた句と思います。中七下五も野遊びのことを言っていますので、上五を切
らずに一章に仕立てましょう。「野遊びの萌黄に染まる指の先」

101  蛇出づる女はつめを研とぎにけり  

 「蛇穴を出づ」は春の季語ですが、「蛇出づる」だと目の前に蛇が出現したという意
味となり、季語として捉えるのは無理があると思います。「研とぎにけり」は誤記でしょ
うか?

102  初土筆げこうせいとに摘まれけり  

 「げこうせいと」は「下校生徒」のことと思いますが、平仮名で書く必然性や意味が
感じられませんでした。

103  SLにトーマスの顔子供の日  

 大井川鉄道だったでしょうか?そのようなニュースを見たことがあります。季語がや
や付きすぎのように思いますので、周りの青葉の景など写生されてはいかがでしょうか?

104  煙突は高さを競ひ昭和の日  

 煙突を見上げながら、高度成長時代を懐かしく思い返しているのでしょう。季語がう
まく活かされています。

105  満開の桜川面を引き寄する  

 桜が擬人化されていますが、私には具体的な景が浮かびませんでした。

106  青空の揺らぎ落花の始まりぬ  

 「空が揺らぐ」という描写に驚きました。花が散り始める瞬間を鋭く捉えられました。

107  西行も芭蕉も詠みし山桜  

 誰でも知っていることは句材になりません。

108  御衣黄や近目となりてこの桜  

 「近目となりてこの桜」は主観的で、作者本人にしかわからない感覚です。


109  ヌ−トリア畑の春菜を食い荒らす  

 「報告的な句」と感じました。

110  剪定の枝に樹液の滲みだせり  

 観察の姿勢が感じられますが、やや説明的に思いました。

111  花冷の胸のつかへにマタイ伝  

 薬か何かのキャッチコピーのように思えてしまいました。

112  春の旅玻璃にひとひら乗せて行く  

 何をひとひら乗せるのでしょうか?

113  たんぽぽや門のみ残る陣屋跡  

 整った句形で、景の良く見える句です。

114  蓬餅食めばおのづと郷訛  

 句の中に因果関係を含むのでちょっと理屈っぽく感じますが、詠み方を工夫されると
良くなると思います。「草餅やほろりと出る郷訛」

115  出世する同期祝う夜亀の鳴く  

 「亀鳴く」のような架空の季語を、理屈っぽくなく仕立てるのは難しいですね。

116  たんぽぽと言えぬ子の手に鼓草  

 ほのぼのとしていますね。ちょっと狙った感じもありますが・・・。

117  御嶽の眠りを覚ます雉の声  

 上五中七で比喩を使っていますが、それがかえって底の浅い句にさせているように感
じます。御嶽の様子を写生し、雉の声との取り合わせとした方が、句が鮮烈になると思
います。

118  うららかな日和に小猿舟を漕ぐ 

 動物園か何かでしょうか? 「うららか」と「日和」は意味が重なりますので、整理
したいところです。

119  花見酒ひざを寄せ合ふ峡暮らし  

 上五と下五を入れ替えても句が成り立ち、中七がどこに係るのかが不明瞭です。

120  波の穂や坊の岬に春の潮  

 上五を「や」で切っている二句一章の句ですので、上五は海とは離れたことを取り合
わせたいところです。

121  野の草に隠れ顔出す雲雀かな  

 地上にいる雲雀を見るのは珍しいですね。「草に隠れて顔を出す」だけですとちょっ
と平凡ですので、もう一歩踏み込んだ観察が欲しいところです。

122  高みへと雲雀追う目の眩しさよ  

 「揚げ雲雀」という季語の説明です。



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