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選句結果
     
第276回目 (2022年6月) HP俳句会 選句結果
【  伊藤範子 選 】
  特選 風若葉ひと揺れで発つ湖西線 正男(大津市)
   紫陽花やミシンの音と雨音と 田中勝之(千葉市)
   葉先まで来て蝸牛揺れどほし      大原女(京都)
   白百合や遺影の母の誕生日 正憲(浜松市)
   緑蔭や絵筆もつ子の清しき瞳 鷲津誠次(岐阜県)
   山の湯の径未だ半ば踊子草 幸子(横浜市)
   細波の尽きし汀や葦茂る 飴子(名古屋市)
   一せいに翔び立つ雀青しぐれ 伊田一絵(東京)
   篝火の消えて鵜舟の鎭もりぬ 梦二 (神奈川県)
   箸置きにガラスの金魚夏料理 小豆(和歌山市)
【  武藤光リ 選 】
  特選 沈黙も会話の内や新茶酌む 惠啓(三鷹市)
   草むしる背番号なきユニフォーム 貝田ひでを(熊本県)
   赤松の幹つややかに梅雨に入る      康(東京)
   葉先まで来て蝸牛揺れどほし 大原女(京都)
   束の間の虹に見惚れし帰り道 ようこ(神奈川県)
   緑蔭や絵筆もつ子の清しき瞳 鷲津誠次(岐阜県)
   飲み友の遺影に供ふ缶ビール 妙好(名古屋市)
   漁了へて篝遠のく鵜川かな 筆致俳句(岐阜市)
   山の湯の径未だ半ば踊子草 幸子(横浜市)
   初夏のひかりと化して魚跳ねる みのる(大阪)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 紫陽花やミシンの音と雨音と 田中勝之(千葉市)
   カリヨンの鐘に零るる薔薇の露 神長誉夫(神奈川県)
   葉先まで来て蝸牛揺れどほし      大原女(京都)
   合歓の花軽トラックの売店来 まこと(さいたま市)
   紫陽花や傘を窄めて譲り合ひ 中島(横浜市)
   篝火の消えて鵜舟の鎭もりぬ 梦二 (神奈川県)
   かくしゃくと水切る棹や新樹光 みのる(大阪)
   走り出す髪の光りし水鉄砲 素焼(さいたま市)
   沈黙も会話の内や新茶酌む 惠啓(三鷹市)
   青嵐ページ押えて中世史 きょうや(東京)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 違へたる約束一つ星祭 櫻井 泰(千葉県)
   風若葉ひと揺れで発つ湖西線 正男(大津市)
   紫陽花やミシンの音と雨音と      田中勝之(千葉市)
   赤松の幹つややかに梅雨に入る 康(東京)
   葉先まで来て蝸牛揺れどほし 大原女(京都)
   合歓の花軽トラックの売店来 まこと(さいたま市)
   漁了へて篝遠のく鵜川かな 筆致俳句(岐阜市)
   葉桜や牛車に巡る武家屋敷 石塚彩楓(埼玉県)
   薔薇の昼ベンチに老いた警備員 伊田一絵(東京)
   箸置きにガラスの金魚夏料理 小豆(和歌山市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、田中勝之さん(千葉市)、大原女さん(京都)でした。「伊吹嶺」6月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



               2022年6月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	風若葉ひと揺れで発つ湖西線

 「ひと揺れで発つ」が臨場感があって良いですね。「風若葉」とは不思議な言葉です。
井上陽水の少年時代という歌にでてくる、「風あざみ」という言葉を思い出しました。
(陽水によると、オニアザミから連想した言葉で、特に深い意味は無いそうです。)

 伊藤範子氏評================================

湖西線は高架で風に影響されます。「ひと揺れで発つ」と実感を詩的に描写されていて良いと思いました。

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2	万緑を抜け出して来る宅配便

 先月の句「万緑を抜け出して来る村のバス」の方が良いと思います。

3	遠花火ベランダ越しに挨拶す

 作者が遠くの花火に挨拶をしたとも、花火を見ながら(聞きながら?)別の人に挨拶
したとも解釈できますね。

4	青トマト朝日やさしき母のよう

 未熟な青トマトに射している朝日を母に喩えたのが良いですね。作者が感じている温
もりも伝わります。ただ、「やさしき」は母のイメージに含まれますので、もう一工夫
あると良いと思いました。

5	街薄暑カフェテラスから笑い声

 お洒落な雰囲気で、どこからかシャンソンなども聞こえて来そうですね。上五に切れ
を入れたのが良いです。

6	夏の夕ドーナツ求む人の波

 「人の列」であればまだイメージが浮かびますが、「人の波」がドーナツ屋に押し寄
せる景はイメージできませんでした。季語も動くように思います。

7	川沿いに歩く細道片かげり

 「歩く」とは言わなくても、川沿いの道と言えば、作者がそこにいることはわかりま
すね。

8	紫陽花やミシンの音と雨音と

 物を並べただけの句ですが、読者にそれぞれの記憶を呼び起させます。私も、縁側で
ミシンを踏む母の傍らで、ガラスの向こうの雨の様子を眺めていた幼い日が蘇りました。

 伊藤範子氏評================================

音の重なりですが、ミシンの手を休めたとき、雨音に聞き入る情景が浮かびます。雨の
紫陽花を見やりながらミシン仕事も捗ったことでしょう。

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 奥山ひろ子氏評===============================

 特選にいただきました。雨籠りでの手仕事ですね。二つの音の重なりが、梅雨の淡々
とした景に馴染んでいると思います。雨の日も楽しんでいらっしゃる、生活感あふれる
作品だと思いました。

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9	草むしる背番号なきユニフォーム

 ちょっと切ないですが、それも青春の一コマですね。

10	どしや降りのなか粛粛と山開

 写生というよりは、報告・説明と感じました。

11	緑陰や午後のひととき将棋熱

 昼下がりの木陰での将棋、良いですね。ただ、三段切れはやめたいところです。

12	曇天の小さき菖蒲田濃く淡く

 小さい菖蒲田の中に、色の濃い部分と淡い部分があるという意味でしょうか? 「曇
天」がその景にどういう効果を及ぼしているのかが、ピンと来ませんでした。

13	せせらぎの道案内や花菖蒲

 せせらぎが花菖蒲園の道案内をしてくれるのか? 花菖蒲がせせらぎのある場所を案
内してくれるのか?

14	田の闇を振るはせ蛙競ひけり

 「振るはせ」は「震はせ」でしょうか?

15	ドクダミの八重競い咲き香を放つ

 どくだみには、八重咲のものもありますね。この句は、そのどくだみの説明という印
象です。

16	鮑捕る波間に和する海女の笛	

 鮑(夏)と、海女の笛(春)の季重なりです。また、句全体として、「海女の笛」の
説明に感じました。

17	赤松の幹つややかに梅雨に入る

 赤松の幹が艶やかに濡れているのを見て、季節の移ろいを実感された感性。

18	梅雨の傘下げ地下街に迷ひけり

 雨を避けて慣れない地下街を通ろうとしたのでしょう。地上の雨、地下の迷宮が作者
を悩ませます。

19	都から発てぬこころよ若楓

 若楓の色に誘われ、旅行に行きたくなったが行けない・・という句意でしょうか?
「都から発てぬこころ」が読み解けませんでした。

20	虫網をくぐりて蝶は大空へ

 よくある景のように思いました。蝶を採りそこなった子の様子や表情などを描くと、
面白いかもしれませんね。

21	観覧車営業してるかカタツムリ

 かたつむりに、観覧車の営業を聞いているのでしょうか? 何故??

22	真っ白な解答用紙夏近し

 窓際の席でテストに臨んでいる生徒の姿を思い浮かべました。窓の外には、もう夏の
気配が漂い、真っ白な雲も見えて、なかなかテスト問題に集中できないのでしょう。

23	カリヨンの鐘に零るる薔薇の露

 綺麗な句です。主季語は「露」で、秋の句になるでしょうね。カリヨンと言えば「鐘」
は不要と思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 明るい音を奏でるカリヨン。そのカリヨンに薔薇から露がこぼれているという、美し
い御句ですね。

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24	ヒール捨て砂丘をゆらぎゆく日傘

 「ゆらぎゆく」が、砂丘を上るのに苦労している様子を伝えています。ただ、履物を
捨ててしまったら帰りに困らないのかな?と、心配になってしまいました。「ヒール脱
ぎ」位で如何でしょうか?

25	紫陽花はコバルトが好き雨上がり

 雨上がりの紫陽花は、梅雨の晴れ間の明るい空の景色に合わせようとして、あのよう
な色合いになっているというのですね。紫陽花を擬人化した斬新な視点だと思いました。

26	紅薔薇のもったいないほど伐られけり

 「もったいないほど」が作者の主観で、説明的になってしまいました。もっと客観的
に、どのように伐られたかを言うと良いと思います。

27	緑陰を潜りてひんやりもらいけり

 ひんやり(という感じを)貰う・・というという捉え方が面白いと思いました。ただ、
緑陰にひやりとした感じを受けるというのは、常識的な感覚の範疇と思います。

28	青田には緑のそよぐ風の道

 青田と風の道は、類句・類想が多くありますので、もう一工夫あると良いと思いまし
た。

29	薔薇の字に花の渦あり棘のあり

 面白い発想の句ですね。そう思って見ると、そう見えて来ます。「蛞蝓といふ字どこ
やら動き出す 後藤比奈夫」を思い出しました。

30	葉先まで来て蝸牛揺れどほし

 誰もが見過ごしてしまいそうな景を、鋭く句に捕らえられました。蝸牛が戸惑ってい
る気持ちが思われて、ちょっと可笑しくなります。

 伊藤範子氏評================================

蝸牛が落ちないように困ったような気分になっていると思うと可笑し味があります。

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 奥山ひろ子氏評===============================

 蝸牛の歩みをじっと見守った作者ですね。落ちてしまいそうですが、うまくバランス
をとっているのでしょう。〈葉先まで〉が具体的で、蝸牛の戸惑いなども考えてしまい
ました。

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31	草野球の水捌け総出梅雨晴間

 説明的な句に感じられます。「水捌け総出」と言う代わりに、水捌けをしている一人
の様子を具体的に描写してみては如何でしょうか?

32	帰りには上着をを腰に蕗を背に

 景はよくわかるのですが、いろいろ言おうとして散文的になってしまった感じがあり
ます。

33	側室の墓をけぶらすさつき雨

 「側室」だけでは誰のことかわかりません。

34	熟れ麦のさざなみきらとうねり立つ

 さざなみとうねり立つが重複しているように思いました。

35	もう一度逢ひに行こうか月涼し 

 季語の斡旋が良いですね。主観的な句ですが、嫌味を感じません。

36	天北の殺風景な夏野かな 

 殺風景というのは、作者が感じたことです。殺風景と言わずに、殺風景な風景が読者
に感じられるように写生したいですね。

37	合歓の花軽トラックの売店来

 軽トラの移動スーパーですね。合歓の花の下での、楽しそうな買い物の様子が浮かび
ます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「合歓の花」と〈軽トラ〉の意外な組み合わせがいいと思いました。移動スーパーで
しょうか。「合歓の花」の下で、華やいだひと時ですね。

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38	米軍機の音よみがへる麦の秋

 遠い記憶でしょうか?  主観的な句ですが、季語がリアリティを感じさせます。

39	便り乗せ北から来ると風香り

 句意がつかめませんでした。季語は「風香り(風薫る?)」でしょうか?

40	綿帽子の空に浮かんで春の空

 綿帽子は和装の花嫁の被り物ですが、この場合は雲の比喩的表現と思います。「綿」
という字が入っていますが、実際は布の被り物で、雲の喩えとしてはあまりピンと来ま
せんでした。

41	皺腹に醸す一句や傘雨の忌

 「腹に一句を醸す」という表現が独特で惹かれました。「皺腹」という自虐的な言い
方も良い感じです。

42	旅先に甚平貰ふ余興かな

 この場合の余興は、宴会等での芸やアトラクションのことではなく、感興が有り余る
ほどであるという意味かと思います。余興という言葉を使わずに、その感興が読者に伝
わるように詠みたいですね。

43	田水張る山脈家並鳶の影

 「山脈家並鳶の影」は、田の水面に映っているものを列記したのだと思います。晴れ
た空の下で田植えを待つ田圃の様子が浮かびます。

44	タバスコの多めの薄暑ナポリタン

 「薄暑ナポリタン」は、料理の名前ではなく、薄暑の頃に食べるナポリタンの意味だ
と思いますが、省略し過ぎだと思います。

45	黒南風や潮の匂ひの重きこと

 匂いが重いというのは面白い表現ですね。纏わりつくような黒南風の感触や匂いを感
じました。

46	束の間の虹に見惚れし帰り道

 「虹」というだけで、それが束の間だけ見えることも、誰もが思わず見とれてしまう
こともわかりますので、わざわざ言う必要はありません。

47	あした咲く菖蒲あさつて咲くしやうぶ

 咲いている菖蒲だけでなく、様々な大きさの蕾も見えていることがわかります。菖蒲
を漢字と平仮名で書き分けた意図は、よくわかりませんでした。

48	白百合や遺影の母の誕生日

 亡くなられたお母様の誕生日に、白百合を手向けられたのですね。真っ白で優雅な百
合から、生前のお母様の様子や人柄が偲ばれます。

 伊藤範子氏評================================

白百合の凛とした花の姿にお母様を重ねている作者が浮かびました。

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49	手庇で渡る信号街薄暑

 薄暑の頃は日差しも強くなります。アーケードから出て信号を渡る時、思わず目を細
め、手庇をかざしたのですね。

50	碁敵がよおと来たるやビール注ぐ

 そういう友達がいると良いですね。飲んでしまって碁が打てるのか、ちょっと心配に
なりました。

51	マンションの庭の植田や里の風

 句意がよくわかりませんでした。マンションの専用庭に小さな水田を作っており、そ
こを吹く風が里から吹いてくるように感じられたということでしょうか?

52	梔子や白衣の天使馳せ参ず

 「白衣の天使馳せ参ず」の意味・状況がよくわかりませんでしたが、もしかして、梔
子の花が咲いたことをそう表現されたのでしょうか? であれば、回りくどい喩えをし
なくても、「梔子の花」と言えば済みます。ちなみに、梔子とだけ言うと、梔子の実の
意味となります。

53	一日(ひとひ)ごと色重ねゆく七変化

 七変化(紫陽花)の"説明"ですね。

54	デパ地下や焼き鱧皮を吊し売り

 デパート地下の食品売り場で、焼いた鱧の皮を売っているというだけでは、詩情に乏
しく、句材としては物足りないと思いましたが、地域によってはこうしたものに季節を
感じるのでしょうか?

55	緑蔭や絵筆もつ子の清しき瞳

 木陰で絵を描いている子がいたのですね。「清しき瞳」は作者の主観で、字余りにも
なっていますので、もう一工夫欲しいと思いました。

 伊藤範子氏評================================

公園の木陰で真剣なまなざしで水彩画を描いているのでしょう。作者が優しくで見守っ
ています。

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56	春浅し川の流れが木魂する

 季節外れの句であることはさておき、「川の流れが木魂する」が現実的でなく、頭で
作った句のような印象を受けました。

57	春一番風が吹いてる山の上

。
 春一番は風のことですから、「風が吹いてる」という措辞は要りませんね

58	釘形に添つて掛け遣るタオルケット

 意味がわかりませんでしたが、もしかして、体を曲げて寝ている姿を、曲がった釘に
喩えたのでしょうか? タオルケットを季語として載せている歳時記は少ないと思いま
す。「タオル掛」でしたら歳時記に載っていますし、字余りも解消します。

59	揖斐川は夏の匂や渡し跡

 夏の匂いが漠然としています。また、川の固有名詞が活きていないと感じました。

60	片蔭に開くる手馴れの電子辞書

 建物や塀の日陰で電子辞書を開いて何をされるのでしょうか? 私も電子辞書が好き
で何個も持っていますが、スマホを使い出してから、まったく使わなくなってしまいま
した。

61	母と子の足取り軽きほたるの夜

 仲良く蛍狩り、良いですね。「足取り軽き」はどちらかというと比喩的な表現で、あ
まり具体的な映像を伴いませんので、もっと具体的な描写をされると更に良くなると思
いました。

62	犬を抱き吊橋渡る夏帽子

 犬が怖がって吊橋を渡ろうとしないのでしょう。優しく抱きながら、そろそろと橋を
渡る女性の姿が浮かびました。

63	飲み友の遺影に供ふ缶ビール

 友情が感じられますが、句材としては陳腐に感じました。

64	日差し追ひ蕊傾きぬ白躑躅

 季語としての「白躑躅」は、襲(かさね)の色目としての、表が白、裏が紫のものを指
しますが、この句の場合は花としての躑躅でしょうか?

65	アルバムの過ぎ来しの日々若葉風

 「過ぎ来しの日々」という日本語に違和感を覚えました。

66	まつといふときめきのありおくりつゆ

 全部平仮名表記された意図がわからず、読みにくいと感じました。

67	誤りの見つくる証明梅雨寒し

 「誤りの見つくる証明」が何のことかわかりませんでした。

68	はつ夏やサーカス町に来るといふ

 明るく生命力に満ちた季節に向かう喜びと、楽しいことが訪れる期待感が伝わります。

69	海のなき生まれ故郷や茄子の花

 紫色であまり目立たない茄子の花。山間の故郷での、質素な子供時代を回想されてい
るのでしょう。

70	漁了へて篝遠のく鵜川かな

 迫力のある漁を終えて、遠くに去ってゆく灯を見送っている作者。高揚の余韻、一抹
の寂しさ、安堵感など、様々な思いが交錯していることでしょう。

71	とりどりの傘行き交ふや梅雨の街

 写生というよりは、「梅雨の街」の"説明"のように感じました。

72	紫陽花や傘を窄めて譲り合ひ

 狭い路地での行き違いでしょうね。ほのぼのとしています。「傘を窄めて」で譲り合っ
ていることはわかりますので、下五は「擦れ違ふ」等もう一工夫できそうです。

 奥山ひろ子氏評===============================

 狭い歩道はこんな心遣いがあると、雨の日も気分上々になります。〈傘を窄めて〉が
具体的な表現でいいですね。

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73	山紫陽花伸びて華やぐ出窓かな

 山紫陽花は、他の花に変えても良い・・すなわち、季語が動くように思いました。

74	山の湯の径未だ半ば踊子草

 「未だ半ば」で距離感と、作者の早く温泉に浸かりたいという気持ちが伝わります。

 伊藤範子氏評================================

「踊子草」に伊豆の踊子の峠が浮かびました。踊子草や木々を見ながらあと少しと歩み
を伸ばしていくのですね。

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75	星のごと十薬庭に昏れ残り

 ドクダミの白い花は、日暮れにも目を引きますね。上五は無くても良いように思いま
した。

76	梅雨入や街を彩る傘の花

 梅雨→傘の連想はありきたりです。傘を花に喩えるのも陳腐ですね。

77	この闇は黄泉か現か蛍の夜

 感動的な光景だったのでしょうね。ちょっと大袈裟に感じましたが・・。

78	朝日射す川のみずける燕かな

 「川のみずける燕」の意味がわかりませんでせした。「水漬ける燕」でしょうか?

79	野鳥追ふ和む青空風薫る

 三段切れは避けたいところです。

80	蛍狩今年も浮かぶ母の顔

 亡くなったお母様との思い出でしょうか? 作者の個人的な思い出を、読者と共有で
きるような普遍的な事象に込められると良いですね。

81	夏富士を望む足湯やコロナ避け

 下五の意味が分かりませんでした。コロナ対策で、足湯に何かの措置が取られていた
のでしょうか?

82	細波の尽きし汀や葦茂る

 写生句ですが、「細波の尽きし汀」は、写生としてやや陳腐(平凡)で、季語の取り
合わせも、これと言って特徴の無い水辺の風景に感じました。

 伊藤範子氏評================================

葦の茂みで細波が途切れると断定したところの観察が良いと思いました。

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83	木洩れ日に絶へね水音山葵沢

 「絶へね」は、「絶へぬ」の誤記なのか、「絶えてしまえ」という命令なのか、よく
わかりませんでした。

84	葉桜や牛車に巡る武家屋敷

 鹿児島の出水でしょうか? 桜はその散り際から武士を連想させますが、それが葉桜
になっているというところが味わいです。「牛車で巡る」ではなく、「牛車に巡る」と
されたところも良いですね。

85	カサブランカ溢れんばかり納棺す

 上五の字余りも、花の豪華さを連想させる効果を出しているように感じました。

86	一せいに翔び立つ雀青しぐれ

 雨上がりに樹の下を通りかかると、不意に雀が飛び立ち、雫が落ちてきたのでしょう。
作者が、驚きつつ楽しんでいる様子が浮かびます。

 伊藤範子氏評================================

青時雨に驚いている可愛い雀ならではの動きが見えるようです。

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87	薔薇の昼ベンチに老いた警備員

 「薔薇の昼」という措辞が良いと思いました。季語として歳時記に載っている「蝶の
昼」と同様、読者の連想を誘います。

88	緑蔭や川田正子のわらべ謠

 わらべ謠は「わらべうた」と読むのでしょうか? 字数合わせのために、童謡をわら
べ謡と表記したように思いますが、童謡(どうよう)と童唄(わらべうた)は、似て非なる
もののように思います。

89	篝火の消えて鵜舟の鎭もりぬ

 鵜飼の終演の景を詠まれていますが、やや報告的に感じました。作者独自の視点・捉
え方があると、さらに良い句となると思います。

 伊藤範子氏評================================

華やかに鵜飼が催された後の静けさがよく伝わりました。

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 奥山ひろ子氏評===============================

 にぎやかな時間の後は、特に静けさを深く感じます。闇に静けさが溶け込んでゆく様
子がうかがえました。

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90	かくしゃくと水切る棹や新樹光

 老船頭の舟に乗って詠まれた句でしょうか? 詳しい状況はわかりませんが、個人的
に、若いころに乗った保津川下りの船を思い出しました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 漕ぎ手はなかなかのお年なのでしょう。でも「新樹光」の季語がまだまだお元気な姿
にエールを送っています

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91	初夏のひかりと化して魚跳ねる

 眩しい一瞬を捉えた句です。光を平仮名表記された意図は何でしょう?

92	流れては親に飛び戻る小鴨四五

 「小鴨」は「子鴨」でしょうか?

93	川烏粋に波切る素潜り師

 川烏(鷭)の説明に感じました。

94	南風ノースフェイスのシャツを干す

 ブランドの固有名詞を出す意図がわかりませんでした。南と北の対比でしょうか?

95	潮騒に驟雨に消ゆるプロポーズ

 プロポーズの声がかき消されたのか? それとも、プロポーズした結果が無になって
しまったのか?? 気になります。

96	海月浮く波に傾げる烏帽子岩

 「波に傾げる」は、烏帽子岩の描写としては平凡に感じました。

97	走り出す髪の光りし水鉄砲

 子供とは言っていませんが、元気な子供の姿が浮かびます。中七に切れが無く、「光
りし」が「水鉄砲」を修飾しているように読めるのが気になりました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 子供は〈走り出す〉生き物。親はいつもそれを追いかけます。作者は落ち着いて、お
子さんの髪の光っている様子を捉えました。元気な雰囲気が伝わってきます。

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98	草木の光り出したる梅雨晴れ間

 きらきらした光景です。「光り出したる」で、これからもっと晴れることへの、作者
の期待感が伝わります。

99	はっとする不意に妖しき瑠璃蜥蜴

 「瑠璃蜥蜴」の主観的な説明に感じました。

100	点滅は恋のシグナル蛍の夜

 俳句で理屈を述べても、読者に感動は届きません。

101	左から初めの一歩蟻の列

 「左から初めの一歩」の意味が分かりませんでした。先頭の蟻が左側の脚から歩き始
めたということでしょうか?

102	鉄釉の花瓶に一枝沙羅の花

 鉄釉の鈍い色合いと、真っ白な花のコントラストが印象的です。

103	ゆるり舞ふ翅の破れし黒揚羽

 「ゆるり舞ふ」は、ゆっくりと優雅に飛んでいる様子を連想させますが、翅が破れて
しまった蝶がそんなふうに飛べるものでしょうか?

104	沈黙も会話の内や新茶酌む

 ちょっと理屈っぽく、映像が乏しいように思いましたが、喋らなくても一緒にいるだ
けで落ち着ける間柄の二人が浮かんで来ます。季語が良いですね。

 武藤光リ氏評================================

確かに喋りたくても喋れない、重い沈黙の続くこともある。
そんな中、新茶であるのが救いだ。季語の働きで救われる。

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 奥山ひろ子氏評===============================

 ちょっと哲学的ですが、〈沈黙〉が苦にならない間柄なのだと思いました。季語の斡
旋もよいと思いました。

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105	酒蔵の改装茶房燕来る

 毎年燕が巣を作っているのでしょうね。見守る店主やお客さんの優しい視線を感じます。

106	猫の目に焔(ほむら)をみたり夏の夜

 「猫の目に焔(ほむら)をみたり」がよくわかりませんでした。猫の目が光って見え
たのか、作者のイマジネーションか?

107	青嵐ページ押えて中世史

 屋外で勉強をしているのでしょうか? 日本の中世は、侍が覇権を競った群雄割拠の
時代。季語が効いています。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈中世史〉は独断で日本史の鎌倉時代と拝察いたしました。
 「青嵐」の季語が、今放映中の大河ドラマを予想させます。〈ページ押えて〉が具体
的でいいですね。
 歴史的仮名遣いですと〈押へて〉ですね。

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108	違へたる約束一つ星祭

 この場合の約束は、まぁデートでしょうね。写生句ではありませんが、読者にいろい
ろな状況・立場を想像させます。

109	日焼けして還暦はまだ生半ば

 主観を述べるのに、俳句は不向きです。

110	籐椅子の窪みは父の据わりぐせ

 籐椅子の窪みに着目したのは面白いと思いましたが、後半でつまらない句になってし
まいました。「籐椅子の父在る如く窪みをり」等、推敲の余地があると思います。

111	一礼し茅の輪をくぐる異邦人

 外国人が茅の輪をくぐったというだけでは、句材として物足りません。

112	子はソーダー爺は小倉のアイス舐む

 ガリガリ君とあずきバーでしょうね。ソーダーはソーダ(soda)です。

113	箸置きにガラスの金魚夏料理

 箸置き一つを詠むことで、涼し気な料理全体を想像させます。上五の助詞「箸置き"に"」
が、ちょっと説明的に感じられますので、他の助詞を考えてみるのも良いかもしれません。

 伊藤範子氏評================================

客人への心遣いがあり、涼し気で料理が美味しそうです。

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114	満開の杜鵑花に葉つぱ引込みし

 季語「杜鵑花(さつき)」の説明に感じました。

115	何時からが梅雨との区別なき雨よ

 気象庁が、梅雨入り・梅雨明けの宣言をしていると思いますが・・。

116	雨兆す水の匂いや蛍の夜

 感覚の鋭い句。蛍狩りでの水の匂いに、雨が近いことを感じたのですね。

117	大橋を潜る帆船風薫る

 現在見ることのできる帆船は、日本丸や海王丸のような大型船とヨット類、伝統漁な
どに使われる歴史的な船等があると思いますが、この句の帆船はどれでしょうか? 橋
の下を潜るということは、川か湖等だと思いますが、そういうところを帆船が走ってい
る景が浮かびませんでした。

118	駅前のポストかすめる燕かな

 燕が飛び回る様子の中で、何故作者は駅前のポストを掠めたことに着目したのでしょ
うか?

119	葉の影のまことに丸い梅実もぐ

 梅の木の葉の影が丸く見えたのでしょうか? それとも「葉の陰」と書きたかったの
でしょうか?

120	草取や効き過ぎ憂ふ除草剤

 観念的かつ理屈っぽい句と感じました。

121	仮通夜の窓辺の灯り守宮泣く

 「守宮泣く」は「鳴く」の誤記でしょうか? 仮通夜なので敢えて「泣く」とされた
のであれば、やり過ぎと思います。

122	妹の着て妣の声せり古浴衣

 「妣の声せり」は、妹の声がそう聞こえたのか、作者の空耳か? いずれにしても、
ちょっと言い過ぎに感じます。そこまで言わずに、亡くなったお母さんを偲ぶ気持ちが
読者に伝わるように詠みたいところです。

123	雨上がり蓮華躑躅の映ゆる朝

 「映ゆる」は作者の主観です。雨上がり、蓮華躑躅、朝と言えば、映えている様子が
浮かびますので、物を通して作者が感じていることを読者に伝えましょう。

124	小糠雨静まる森や不如帰

 小糠雨はもともと音もなく静かに降るので、「静まる」とはあまり言わないと思いま
す。そうすると、この句は上五、中七、下五がそれぞれ切れる三段切れということにな
ります。三段切れは、リズムも意味も切れ切れになるので、できるだけ避けましょう。

125	電球を手に電器屋へ梅雨寒し

 電球が切れてしまったので、同じものを買いに仕方なく雨の中に出たのでしょう。背
中を丸めて歩く様子が浮かびます。

126	仏壇に夕張メロン熟るるまで

 同じことをする人は多いと思いますので、句材としては物足りないですね。

127	薬局の傘立て溢す梅雨入かな

 「傘立て溢す」の意味が分かりませんでした。


第275回目 (2022年5月) HP俳句会 選句結果
【  松井徒歩 選 】
  特選 肩書の取れし子と酌む冷し酒 雪絵(前橋市)
   子の嫁へ届けし青のカーネーション 椋本望生(堺市)
   走り根に生き抜く力夏木立      節彩(東京)
   通勤の若き歩幅や青葉風 伊田一絵(東京)
   薫風や失せものいづと占い師 さいらく(京都)
   菩提寺はひとつばたごの花滂沱 隆昭(北名古屋市)
   メーデーや改札通る組合旗 筆致俳句(岐阜市)
   大鍋にカレーの香り昭和の日 町子(北名古屋市)
   右肩に警策ひびく初夏の朝 野津洋子(愛知県)
   マウンドに西日煉瓦の校舎にも 幹弘(東京)
【  国枝隆生 選 】
  特選 トンネルの出口緑の万華鏡 正憲(浜松市)
   万緑を抜け出して来る村のバス 正男(大津市)
   薔薇園や眩しすぎたる少女像      蒼鳩 薫(尾張旭市)
   走り根に生き抜く力夏木立 節彩(東京)
   逝きし子の写真に太き柏餅 まこと(さいたま市)
   袋掛け首休めつつ休めつつ 中島(横浜市)
   大鍋にカレーの香り昭和の日 町子(北名古屋市)
   のどけしや客は二人の地域バス 妙好(名古屋市)
   エメラルド色に鎮もる夏の湖 妙好(名古屋市)
   傘上げて擦れ違ふ町若葉寒 幹弘(東京)
【  高橋幸子 選 】
  特選 通勤の若き歩幅や青葉風 伊田一絵(東京)
   万緑を抜け出して来る村のバス 正男(大津市)
   トンネルの出口緑の万華鏡      正憲(浜松市)
   菩提寺はひとつばたごの花滂沱 隆昭(北名古屋市)
   メーデーや改札通る組合旗 筆致俳句(岐阜市)
   闇を突く笛の高鳴り薪能 町子(北名古屋市)
   大鍋にカレーの香り昭和の日 町子(北名古屋市)
   右肩に警策ひびく初夏の朝 野津洋子(愛知県)
   花は葉に初段となりし豆剣士 鷲津誠次(可児市)
   遠蛙長距離バスを降りてより 櫻井 泰(千葉県)
【  坪野洋子 選 】
  特選 トンネルの出口緑の万華鏡 正憲(浜松市)
   葉桜の影の下行く乳母車 いまいやすのり(埼玉県)
   Tシャツの腕の白さや夏はじめ      笑子(愛知県)
   諦めも悟りの内や夕端居 中島(横浜市)
   薫風や失せものいづと占い師 さいらく(京都)
   メーデーや改札通る組合旗 筆致俳句(岐阜市)
   闇を突く笛の高鳴り薪能 町子(北名古屋市)
   大鍋にカレーの香り昭和の日 町子(北名古屋市)
   朝光を雫に宿す古代蓮 詩子(長野県)
   遠蛙長距離バスを降りてより 櫻井 泰(千葉県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、正憲さん(浜松市)でした。「伊吹嶺」5月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



        2022年5月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

1	たらの芽を掴み漢の降り来たる

<漢>の語感からいかにも男らしい人が想像されて、「たらの芽」との対比が面白いで
すね。金子兜太の句なんかを連想しました。

3	粽結う結び目さえも美しく

<さえも>に主観が入りすぎていると思います。

4	ほの甘き友の作りし粽食ぶ

<食ぶ>とまで言うとかえって報告になるような気がします。

6	若葉光木々の精気の満ち満ちて

若葉の説明のような感じを受けました。

8	春雨や照る照る坊主は見上げをり

雨を恨んで空を見上げていると解釈すると理屈を感じてしまいます。

9	アルバムの整理進まず昭和の日

(国枝選) 私も母の写真整理がなかなか進みません。母の昭和の匂いを感じながら整理
しています。

10	年重ね庭木断捨離みどりの日

年を重ねたから断捨離をするわけですから<年重ね>は言わずもがなではないでしょう
か。

11	万緑を抜け出して来る村のバス

山間の村でしょうか。その緑の中からバスがやって来る。

高橋幸子氏評================================

<万緑を抜け出して来る>との表現から、村のバスが万緑の山道を抜け、開けた場所に
下ってきた景を思い浮かべました。バスを待つ視線の動きが、村のバスへの愛着を感じ
ます。

 ======================================

国枝隆夫氏評===============================

村のバスですから田舎の緑豊かなところでしょう。「万緑」から抜け出る印象が明るく
感じさせます。

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12	列島を揉みほぐしゆく青嵐

大胆な句とは言えるのですが、<揉みほぐし>が分かるようで分からないような・・・。
詩とはそういうものかもしれませんが・・・。

(国枝) 眼前の実景でないかもしれませんが、目の前の「青嵐」から揉みほぐすような
日本列島に発想を飛ばしたのでしょう。

13	葉桜の影の下行く乳母車

<影の下>ですから「葉桜」そのものに影を感じたのですね。

坪野さん選です。

15	鳶影に話し声止む躑躅陰

<影>と<陰>。意識的な措辞だと思いますが、成功していますでしょうか。

16	低唱の一本道や春の闇

(国枝) 「低唱」の効果がよく分かりません。低い声で歌いながら夜の一本道を歩いて
いるのでしょうか。

17	春日傘くるり回せば陽が躍り

日傘を回す句は沢山見てきましたし、<くるり>は常識的すぎると思います。

18	サヨナラは消えてもぶらんこ揺れ続け

中八にしてまでも<も>は要りますでしょうか。

19	床の間の真ん中に居る春りんだう 

この句で<居る>という動詞が要りますでしょうか?

22	喧騒の戻りし銀座夏やなぎ

コロナが落ち着いたということでしょうか。俳句として面白いかどうか?

24	肩書の取れし子と酌む冷し酒

良い句ですね。お子さんにご苦労様と労い、ご自身の長寿を祝う。お祝いをさりげなく
冷やし酒というのも効いています。

25	向日葵や笑顔は世界共通語

予選で頂きました。明るくて良いですね。プーチンに見せてやりたい句です。

28	・花頭窓見下ろす仏花見かな

花頭窓と仏の関係が?でした。中七で切れているので<花見かな>も浮いた感じです。

30	どこまでも信号は青若葉風

気分爽快な句ですね。

31	白シャツの眩しき人や背にギター

句の中心は人ではなくシャツの眩しさだと思うので<人>に<や>が付くのはどうで
しょうか?

32	薔薇園や眩しすぎたる少女像

 少女像を感覚的に捉えた句ですね。初夏の眩しい日差しを感じました。

国枝隆夫氏評===============================

選者として選ぶときはどうしても既視感のある情景が浮かびます。名古屋鶴舞公園には
薔薇園の中に乙女像があります。その像はまさに眩しすぎるくらい明るさの中に立って
います。薔薇のまぶしさが少女像に照り輝いている様子がピッタリです。

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33	病葉や畦に放置のトラクター

「病葉」という明るくないイメージの季語と<放置>と言うこれまた明るくない言葉が
並んだことに、俳句の作りとしてどうかなあと思いました。季語で追い打ちのように暗
くする必要はないと思います。

35	子の嫁へ届けし青のカーネーション

母の日ですね。お子さんの奥様へとは感心いたしました。見習いたいのですが息子が未
婚であります。最近は紫陽花が流行っているようですね。

37	梅の実のぽとりとひとつ無垢の青

<ぽとり>は分かりやすい表現ですが常套的なオノマトペだと思いました。悪い句では
ありませんので他の表現で上を目指してください。

39	髪洗ふきのふのことは過ぎしこと

予選で頂きました。季語が良く効いていますが、個人的な事情について読み手が想像し
辛いのが難点ですね。

40	小さき遠出卯月野歩け歩けかな

あまり細かい文法を語ると俳句がつまらなくなるとも言われますが、<かな>は体言と
活用語の連体形に接続します。

41	走り根に生き抜く力夏木立

走り根は正に生命力の証ですね。

国枝隆夫氏評===============================

「生き抜く力」と抽象的に詠むのは「伊吹嶺」ではあまり見られませんが、走り根には
そんな力強さが見えます。

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42	聖堂に百合の香満ちて聖五月

季語の前にはっきりとした切れを入れた方が季語が生きると思いました。

(国枝) 「百合」と「聖五月」の季重なりがともに強いと思いました。「聖堂」「百合」
とあれば「聖五月」は要らないと思いました。

43	Tシャツの腕の白さや夏はじめ

衣替え直後の白い腕が鮮明。

(国枝) 夏になって初めて半袖の腕の白さに改めて夏になったばかりの実感があると思
います。

坪野さん選です。

45	トンネルの出口緑の万華鏡

万華鏡の見立として「緑」と単純に言い当てたことが良いと思いました。

坪野さんの特選です。

高橋幸子氏評================================

トンネルの出口を<緑の万華鏡>と発見した感性に惹かれました。新緑の明るい光が煌
めく初夏だからこそ詠める御句ですね。

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国枝隆夫氏評===============================

このトンネルは列車などのトンネルでなく、歩いて行ったトンネルではないかと思いま
した。その1つに私の経験した旧中央線の愛岐トンネルがあります。「万華鏡」は一つ
の見立ての比喩です。真っ暗なトンネルを抜け出た途端、緑の明るさに覆われる。その
キラキラした緑を「万華鏡」と見立てたところがよかったと思います。

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46	新緑を湛ふる小さきダム湖かな

水面が緑一色なのですね。

48	三成の水攻めの城青田風

三成でなく他の人でも良さそうな気もしますが、三成は武将としては評価されていない
人ですのでかえって効いているかもしれませんね。「青田風」の季語で景色も見えてい
ます。

49	逝きし子の写真に太き柏餅
 
写真に写っている柏餅だと思いましたが、写真に供えてあるのですね。切ない句ですね。

国枝隆夫氏評===============================

まだ最近亡くなられたのでしょうか。亡くなって初めて子供の日を迎えるにあたり遺影
に柏餅を供えたのでしょう。「太き」の作者の思いが見えます。

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50	緑さす湖上たゆたうロープウェイ

出来ている句ですが報告気味でしょうか。

51	シャカシャカと草踏む夫や夏蕨

<シャカシャカ>では草を踏む姿が見えてこないような気がします。

52	幼児の影飛び跳ねる聖五月

影が効いているかどうか?「聖五月」も他に合う季語があるような気がします。

53	諦めも悟りの内や夕端居

悟りを開いたような心境。

坪野さん選です。

54	袋掛け首休めつつ休めつつ

<休めつつ>のリフレインに実感がありますね。

国枝隆夫氏評===============================

袋掛けをを行うときは人の身長より高いところへも掛けるのでしょう。「休めつつ」
のリフレインが作業の大変さと楽しさと時間経過が見えます。

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55	松籟や浜に卯波の白々と

松籟と卯波と、目移りしてしまうのが気になります。

56	友一人チャットで増えし四月尽 

入学や新社員として四月も終り、チャットとはいえ友人が増えたということでしょうか。

58	母の日の父にも添へし贈り物

<添へし>は現在形の方が良いと思いました。

59	抜き襟の女将を急かす街薄暑

薄暑が女将を急かしているのですか? それとも中七で切れている? この句は他動詞
よりも自動詞のほうが良いように思いました。

62	蜘蛛の囲や蔵の錆びたる鉄格子

<蔵の><蔵に>、どちらが良いか悩みます。

(国枝) 蔵の錆びた鉄格子の薄暗さと蜘蛛の囲の暗さを取り合わせたのが印象的でした。

64	通勤の若き歩幅や青葉風

中七と季語が良く呼応していますね。

高橋幸子氏評================================

特選にいただきました。<若き歩幅>から颯爽と大股で勤めに向かう若者の姿が髣髴と
してきます。「青葉風」が心地よく、ぴったりの季語です。

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66	濃淡をつくる日差しや柿若葉

<濃淡をつくる>は発見と言うよりは説明に思えます。

67	宅配の置き配控ふ走り梅雨

荷物が雨で濡れては大変なわけで、そういう目で句を読むと雨の季語は理屈を感じます。

70	薫風や失せものいづと占い師

面白い占卜ですね。<いづ>と旧仮名ですので、<占い師>は<占ひ師>ですね。

坪野さん選です。

71	菩提寺はひとつばたごの花滂沱

字数の多い季語ですが上手にまとめましたね。

(国枝) 「花滂沱」が一寸大げさかも知れませんが、一面真っ白な「ひとつばたご」を
見ていると、そう言わざるを得ない感じに同感します。

高橋幸子氏評================================

ひとつばたご(別名なんじゃもんじゃ)を調べてみました。自生の木は30メートルにな
るのもあり、白く細長い花が木全体を覆うように咲き、花は散りやすくて、雪のように
積もるとか。菩提寺には大木があるのですね。<滂沱>に散る白い花が想像でき、見て
みたいと思いました。

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73	メーデーや改札通る組合旗

<改札通る>に俳味を感じました。その交通機関の組合なんかも想像しました。

(国枝) これからメーデーに参加するときなのか帰るときかは分かりませんが、組合旗
を持ったまま改札口を通ったところに意表を突いた臨場感があると思います。

坪野さん選です。

高橋幸子氏評================================

今年は、3年ぶりに中央メーデーが行われました。<改札通る>から、労働組合の旗を
持ち、仲間と電車に乗り会場に向かう様子が伺えます。<組合旗>に焦点を当てたのが
良かったと思います。

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76	千匹で川を渡るや鯉のぼり

川幅一杯に渡してある鯉幟でしょうか。<川を渡る>が分かりにくかったです。

77	紫陽花を愛でつ半生語り初む

<愛でつ>という動詞を使わずに、季語「紫陽花」は独立して使ったほうが良いと思い
ました。

79	闇を突く笛の高鳴り薪能

「薪能」に闇の句は良く見かけますが、<笛の高鳴り>で臨場感が出ました。

坪野さん選です。

高橋幸子氏評================================

能は笛の響きから始まり、神であるシテが天上から降りてくることも表すそうです。
<闇を突く>が突然起こった笛の鋭い響きを想像させ、緊迫感があります。<笛の高
鳴り>で、いよいよシテの登場です。「薪能」ならではの雰囲気が感じられます。

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80	大鍋にカレーの香り昭和の日

どんな場面かは読者に任せられている訳ですが、子供たちが家族を連れて実家に集まっ
た場面として読みました。全てに昭和の匂いを感じました。

坪野さん選です。

高橋幸子氏評================================

昭和世代には、大鍋にカレーを作った思い出がいろいろあります。キャンプ場で、祭り
会場で、子供会で等々。カレーの香りが懐かしさを呼び起こします。「昭和の日」が動
かないです。

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国枝隆夫氏評===============================

「大鍋」ですから、皆でのバーベキューなどの一齣でしょうか。「カレーの香り」に昭
和のノスタルジーが感じられます。

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82	さりげなく鹿の子は脚をたたみけり

<さりげなく>は子鹿の描写としては物足りないと思いました。

84	廃校にベンチャー企業入り初夏

上五中七で意味は通じますので、<入る>は要らないと思います。

85	母の日や兵は還らず骨もまた

ロシアのにも「母の会」がありますね。

87	少年の日の酸っぱさよ青林檎

<酸っぱさよ>若き頃の思い出か、林檎のことか、あるいは両方か。いずれにしても季
語が付きすぎでは・・・。

88	小流れの群れる小魚夏めける

(国枝) 「小流れの」は所有格ですが、どこへ掛かるのでしょうか。「小流れを」なら
分かりますが。

89	車前草の花キャッチボールの父と子と

上五は字余りを避けて<車前草や>で良いのでは・・・。

92	若者の手足眩しや五月来ぬ

形容詞の終止形に<や>を付ける必要があるのかなあ?と疑問に思いました。

93	のどけしや客は二人の地域バス

お客が少ないのは寂しいし、経営的にはどうかと心配もするのですが、「のどけしや」
も本音ですね。

国枝隆夫氏評===============================

「地域バス」はいわゆる田舎のコミュニティーバスでしょう。たった二人の乗客に感じ
たのどけさはつき過ぎかも知れませんが、「二人の客」と特定したのが余計にのどけさ
を感じました。

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94	エメラルド色に鎮もる夏の湖

静かな山の湖ですね。いつまでも佇んでいたい場所。

国枝隆夫氏評===============================

エメラルド色から山の中の湖を想定しました。山の湖は人のいない静けさをエメラルド
色に代表させています。色が印象的です。

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95	文楽の心中あわれ暮の春

心中があわれなのは当たり前すぎると思います。

96	蒲公英の球のふわふわ古団地

旧仮名使いは強制ではありませんが、<ふはふは>と表記したほうが柔らかい感じが出
ると思います。

97	逆さ富士貫き起立葦の角

(国枝) 池か湖かは分かりませんが、水面に映った富士を突き抜けた葦の角に勢いを感
じました。

99	水鳥の遊ぶ川瀬や夏近し

出来ている句だと思いますが、やや報告気味でしょうか。

100	右肩に警策ひびく初夏の朝

乗馬と勘違いするところでした。座禅ですね。

高橋幸子氏評================================

<右肩に>としたことで、警策が打ち下ろされる瞬間が見えます。瞬間の破裂音が
<初夏の朝>なので心地よく響き、禅の清々しさも感じられます。

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101	鈴蘭の鈴鳴らすかに風そよぐ

(国枝) 鳴るはずのない鈴蘭が鳴るようだと感じた「風そよぐ」が印象的でした。

102	八ヶ嶺の裾野広けし麦の秋

色々と調べましたが<広けし>という言葉を見つけることができませんでした。私の間
違いでしたら申し訳ありません。

(国枝) 「裾野広けし」が分からないのですが、入力ミスでしょうか。

103	朝光を雫に宿す古代蓮

細かい写生ですね。

坪野さん選です。

104	街並みの保存区域や燕来る

<保存区域>は全国のそういう街並みを想像して良く分かるのですが、保存区域で括ら
ずに街並みを描写してほしいです。

105	褪せてなを変わらぬ泳ぎ鯉のぼり

<なを>は<なお>ですね。旧仮名では<なほ>です。

106	薫風に高野の山の曙光かな

「薫風」と<曙光>は共に良い言葉ですが、俳句の中で合うかどうか? 薫風は明るい
日差しの中で生きる季語だと思います。

107	学び舎に歌声戻る若葉風

(国枝) コロナ禍明けの学校を感じました。「歌声戻る」に喜びが見えます。

108	凪の湖面濃淡映ゆる山若葉

奇麗な景色ですが材料が多すぎるように思いました。湖面に若葉が映っているのですか
ら波が無いのは分かります。<凪>は省略してはどうでしょうか。

109	花は葉に初段となりし豆剣士

好きな句でした。

高橋幸子氏評================================

剣道で初段となった少年。凛々しい<豆剣士>ぶりが見えるようです。季語「花は葉
に」に、少年の成長が感じられます。

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110	遠蛙長距離バスを降りてより

長居距離を経て郷里へ帰ったのでしょうか。蛙の声も一入でしょうね。

坪野さん選です。

高橋幸子氏評================================

<長距離バス>で、田舎に帰られたのでしょうか。長時間バスに揺られ、やっと着いた
地。バスを降りると空気も風も違うのでしょうね。遠くから蛙の声が聞こえ、郷愁を誘
われます。

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112	風薫る湾を出て行くポンポン舟 

<ポンポン舟>が長閑な風景に色を添えていますね。

114	マウンドに西日煉瓦の校舎にも

歴史のある学校のようですね。西日が効果的で練習熱心な野球部が伺えます。

115	傘上げて擦れ違ふ町若葉寒

賑わっている町ですね。どこかの観光地でしょうか。

国枝隆夫氏評===============================

「街」でなく、「町」であることに着目したいと思います。すれ違うところが狭いとこ
ろなのでしょう。そのすれ違うときの所作に美しさを感じました。

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